世界中で、建築物を環境によりやさしく、かつエネルギー効率のよいものにすることが、求められています。そのため、建築業者は、屋外から建物内に入る自然熱の管理に尽力しています。外壁は断熱処理されているので、建築物の気温の上下動に大きな影響を与えるのは、窓ということになります。熱量の管理には、建築用ガラスに薄膜コーティングを施し、寒い時期に赤外 (IR) 光で部屋を暖めたり、暑い時期に IR を反射して室内を涼しく保ったりする手法が用いられています。そのような薄膜コーティングの特性分析に最適な機器が、Agilent Cary 630 FTIR 分光光度計です。
薄膜には、室内に入る IR 光量と反射する光量のバランスを取れる光学的特性が求められます。コーティングを施したガラスに太陽光が当たる角度が、ガラスを通過できる光の量に大きな影響を与えるのです。
FTIRを使えば、IR スペクトル範囲全体で薄膜の特性を測定することができます。この測定結果は、同様の UV-Vis-NIR 測定結果を補完するものです。両方のタイプのデータを集めることができれば、より完璧なコーティングの特性分析が可能になります。アジレントでは、FTIR 測定と UV-Vis-NIR 測定、両方のソリューションを提供しています。
図 1. 10°正反射アタッチメント を使えば、光を反射するサンプルを、平らな表面からほぼ通常の入射角で測定することができます。
図 2. 10°正反射アタッチメント を接続した Cary 630
図 3. 波数に対してプロットした反射率
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図 4. 波数に対してプロットした補正反射率
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データ採取を簡単にする使いやすいアタッチメント
10 °正反射アタッチメント (図 1) を使えば、Cary 630 FTIR を用いて、入射角 10° (ほぼ通常の入射角) でガラスコーティングの特性を測定することができます。最近の研究で、4 種類のガラスサンプルを測定しました。3 種類はコーティングされたもの、1 種類はコーティングのない参照用のガラス板です。研究の目的は、GBT 2680-94 手順に従い、建築用ガラスの赤外反射率を測定することです。
このアクセサリは、Cary 630 に簡単に装着して、調節不要ですぐに使えます。図 2 にあるように、このアクセサリの上にサンプルを置きます。ソフトウェア認識機能により、分析に特化したメソッドをロードできるため、簡単な測定を実現しています。
信頼性の高い客観的測定
3 種類のサンプルと、コーティングされていない参照用のガラス板を測定しました。図 3 のグラフは、波数に対する反射率の未処理データを示しています。このデータを以下の方程式に代入し、太陽放射照度(日射照度)を算出しました。
図 3 の反射率を各波数の放射照度係数 (Gλ) で積算しました。得られた結果を、図 4 に示すように、補正反射率として波数 (単位ミクロン) に対してプロットしました。
その後、各サンプルのデータセットを合計し、コーティングの IR 光反射効率の値を算出しました (表 1)。反射率が高いコーティングほど、値が大きくなります。参照のガラス板はコーティングがされていません。この参照の分析結果から、未処理ガラスでは、多くの IR 光が建築物内に入ることがわかります。サンプル 1 と 3 は参照ガラス板よりも反射率が高いため、室内に入る IR 光 (熱) の量は少なくなります。サンプル 2 は反射防止コーティングが施されており、コーティングなしの参照ガラス板よりも反射率が小さいため、ガラスを通過する IR 光の量は多くなります。
参照 |
サンプル 1 |
サンプル 2 |
サンプル 3 |
|
太陽放射照度 |
10.3 |
19.3 |
9.5 |
95.2 |
表 1.各種コーティングの反射特性
ガラスのコーティングにより、反射される赤外光の量が変化することがわかりました。分析したサンプルのうち、2 種類のコーティングは反射率を高め、赤外光の加温効果を低下させます。一方、1 種類のサンプルは反射率を低下させ、より多くの赤外光を室内へ通すため、建築物のパッシブ暖房効果が大きくなります。
簡単なルーチン分析
Agilent Cary 630 FTIR と 10 °正反射アタッチメントを使えば、大型または小型のガラスサンプルを簡単に分析し、Agilent MicroLab ソフトウェアで設定されている自動メソッドにより、さまざまなフォーマットでデータのレポートを作成することができます。Agilent Cary 630 FTIRのアタッチメントを使えば、高品質の分析結果が迅速に手に入ります。その詳細についても、併せてご確認ください。