クロマトグラフィー分析における最大の難問は、マトリクスの量と分析の対象となる化合物が多く含まれる複雑なサンプルを完璧に分離することです。その典型的な例として、生体試料が挙げられます。二次元液体クロマトグラフィー (2D-LC) を用いれば、極めて強力なクロマトグラフィー分離能力が得られますが、従来の技術では適用することが困難でした。Agilent 1290 Infinity 2D-LC ソリューションと使いやすい 2D-LC 解析ソフトウェアを使うことにより、これまでよりも手軽に、この分析手法を活用できるようになります。
資金力や技術力の優れた最先端の研究室でも、以下のようなハードウェアおよびソフトウェアの障害により、この強力な技術を適用することが妨げられていました。
Agilent 1290 Infinity 2D-LC ソリューションは、このような障害を取り除いた初のシステムです。定評あるheart-cutting 2D-LCに加えて、従来では極めて困難であったcomprehensive 2D-LCも可能にします。Agilent 1290 Infinity 2D-LC ソリューションは、複雑なサンプルの分析に最適なシステムで、システムやメソッドの設定も極めて簡単です。
10 倍のピークキャパシティ ― 従来の(U)HPLCと比較して
クロマトグラフィーの分離能力を決定する最も重要な指標として、ピークキャパシティが挙げられます。ピークキャパシティとは、一定時間に分離できるピーク数のことです。この値が高いほど、クロマトグラフィーによる分離が良いということになります。
2D-LC システムでは、一次元クロマトグラフィーの時間軸に対して垂直方向にも分離メカニズムが加わることから、一次元クロマトグラフィーよりも非常に高いピークキャパシティが得られます。特に複雑な混合物では、2D-LC を適用することにより、一般的な分析時間で約 10 倍のピークキャパシティが得られます [1]。
図 1. comprehensive 2D-LC とheart-cutting 2D-LC の違い。どちらの技術を用いても、ピークキャパシティが向上します。 (図を拡大)
comprehensive 2D-LC とheart-cutting 2D-LC の両方を1つのシステムで
comprehensive 2D-LC では、一次元目カラムを通過する全ての溶液が二次元目カラムに導入され、超高速グラジエントで分析されます。一次元目で出現するピークは、少なくとも3~4回に分かれて二次元目へ展開されます (図 1)。二次元目の分析時間は、一次元目のカラムを通過する溶液を採取する時間と同じです。最後に、ソフトウェアによってピークを再構成します。定量分析では、ソフトウェアにより、3D クロマトグラムのピークボリュームを算出します。
heart-cutting 2D-LC では、一次元目カラムを通過する溶液の一部だけを二次元目カラムに導入します。一般的に、一次元目で出現した特定のピーク全体もしくは一部を採取して二次元目へ展開するため、採取時間よりも長い時間でグラジエント分析を行うことが可能です。そのため、二次元目では分離効率の高い長いカラムが一般的に使用されます。
heart-cutting 2D-LCで重要なポイントとなるのは、二次元目のグラジエントが実行されている間に、一次元目のカラムからピークが溶出してくる時です。このピークは、一次元目カラムの後に検出器が接続されていない場合には検出されず、クロマトグラム上にピークとして現れません。
簡単なハードウェアおよびソフトウェア設定
2D-LC が困難な技術とされてきたのは、設定が複雑で、いくつかの変動要因あるためです。最も重要な変動要因と複雑性要因は、以下のとおりです。
図 2. 簡単なハードウェア設定およびメソッド設定を可能にするグラフィカルユーザーインターフェース (図を拡大)
図 3. 赤ワインサンプル (Merlot) の 3D クロマトグラムは、分析が難しい複雑な混合物が分離されていることを示しています。
(図を拡大)
図 4. 不純物検出: メインクロマトグラム (青) とheart-cutクロマトグラム (赤) の重ね表示。heart-cutting 2D-LCにより、さらなるピークの分離と検出が可能になっています。 (図を拡大)
Agilent 1290 Infinity 2D-LC ソリューションでは、ほぼ全ての Agilent LC ポンプおよびオートサンプラを一次元目で使うことができます。そのため、既存の LC システムを 2D-LC システムにアップグレードすることが可能です。新しい 2Pos/4Port-Duo バルブは、comprehensive 2D-LC のために特別に設計されたバルブです。完全に対等な 2 つの流路系を備えているため、切り替えの際の干渉が小さくなります。
新しいアドオンソフトウェアにより、ハードウェアおよびメソッドの設定が簡略化されています。図 2 に示すように、グラフィカルなインターフェースにより、経験が浅くても複雑な 2D メソッドを設定および変更することができます。
comprehensiveおよびheart-cutting 2D-LC の威力を示すアプリケーション
一般的にcomprehensive 2D-LCは、分析対象となる化合物の数が多く、一次元クロマトグラフィーでは十分に分離できない複雑なサンプルに対して適用されます。アプリケーションノート 5991-0426EN では、各種飲料に含まれるフェノール系酸化防止剤の定性および定量分析において、comprehensive 2D-LC を用いました。飲料に含まれる複雑な混合物 (図 3) が、2D-LCにより良好に分離されました。これは一次元LCでは極めて困難な分析です。
二次元目のリテンションタイムの相対標準偏差 (RSD) は約 0.5 % 未満、ソフトウェアで算出したピークボリュームの RSD は約 3 % 未満でした。定性分析と定量分析の組み合わせにより、この複雑な混合物のプロフィール測定が可能になりました。この手法は、品質管理において極めて強力なツールになります。
混合物に含まれる微量化合物の同定は、主成分から十分に分離されていない場合には困難が伴うことがあります。アプリケーションノート 5991-0834EN で示しているheart-cutting 2D-LC を用いることにより、このような分析上の問題を解消することができます。このアプリケーションノートでは二次元分離を行うことにより、さらに 2 つの低濃度不純物を簡単に測定することができました (図 4)。
これらの例は、comprehensive 2D-LCとheart-cutting 2D-LC の利点を示しています。Agilent 1290 Infinity 2D-LC ソリューションを使えば、あらゆる分析で簡単に 2D-LC を適用することが可能になります。詳細については、アジレントの 2D-LC ソリューションに関するビデオをご覧ください。
References