Access Agilent 2013年1月号

Agilent 720 ICP-OES による ゼラチンベース製剤カプセル中の有害元素の同時測定

Yingping Ni
アジレントアプリケーションエンジニア

今年の初め、中国で製剤に用いられている食用ゼラチンカプセル中に、過剰なクロムが含まれていたことが明らかになりました。消費者の安全を確保するために、中国国家食品薬品監督管理局 (SFDA) は、2012 年 4 月に警告を公布しました。

この記事では、中国で入手した複数のゼラチンカプセルに含まれるクロムなどの有害金属およびその他の金属の測定について説明します。分析には誘導結合プラズマ発光分析装置 (ICP-OES) を使用しました。HNO3、H2O2、HF の混合液中でサンプルを 200 °C でマイクロ波分解したのち、Agilent 720 ICP-OES(アキシャル測光プラズマ)を用いて、超微量検出をおこないました。クロムのメソッド検出下限は 0.02 mg/kg 未満で、最大許容限度の 2 mg/kg を大きく下回りました。

分析の簡易化と高速化を実現する独自の検出器

Agilent 720 ICP-OES は、次世代版 VistaChip II を備えています。これはICP用に設計されたアジレント独自の CCD 検出器で、真の同時測定を実現し、167~785 nm の波長を完全にカバーします。VistaChip II に備わっている感光性ピクセルの連続傾斜アレイは、エシェルオプティクスの生成する 2 次元イメージと完全にマッチします。検出器は密閉されているためガスパージが不要なので、迅速に分析を開始できます。温度制御されたエシェルオプティクスは、優れた長期安定性を備えています。この独自の CCD 検出器のおかげで、Agilent 720 ICP-OES ではより高速かつ簡単にサンプルを分析することが可能です。

高速メソッド開発を可能にするソフトウェア

機器のコントロールには、アジレントの直観的なワークシートベースの ICP Expert II ソフトウェアを使用しました。このソフトウェアは、経験の浅いユーザーでもメソッド作成をスピードアップできる自動最適化ツールを搭載しています。「オートマックス」機能では、機器条件を自動的に最適化することができます。「フィッティング」バックグラウンド補正機能を使えば、ピーク近傍のバックグラウンド補正ポイントを手動で選択する必要がなくなり、メソッド作成が簡単になります。

メソッド検出下限の要件を簡単に達成

マイクロ波分解をおこなったのち、3 つの空のゼラチンカプセルを分析しました。また、10 µg/L の Cr、As、Cd、Pb、Be、Ba、Cu、Mn、Ni を添加したサンプル溶液も作成しました。

分析に先立ち、このアプリケーションの装置検出下限とメソッド検出下限を測定しました。検出下限は、測定した試薬ブランク濃度 (11 回連続繰り返し分析) の標準偏差の 3 倍 (3σ) と定義されます。 1 に、分解サンプルおよび固形サンプルのメソッド検出下限 (MDL) を示しています。これらの値は、中国薬局方(2010 年版) で規定されたゼラチンカプセル中 Cr に必要とされる下限値を十分に満たしています。

元素

波長 (nm)

分解サンプルの MDL (µg/L)

固形サンプルのMDL(mg/kg)

Cr

267.716

0.23

0.019

As

188.980

1.40

0.12

Cd

214.439

0.11

0.009

Pb

220.353

1.31

0.11

Be

313.042

0.02

0.002

Ba

455.403

0.02

0.002

Cu

327.395

0.45

0.038

Mn

257.610

0.03

0.002

Ni

231.604

0.57

0.048

表 1. 分解および固形サンプルの優れたメソッド検出下限

信頼性の高いサンプル分析と優れた添加回収率

3 種類のゼラチンサンプルに含まれる Cr、As、Cd、Pb、Be、Ba、Cu、Mn、Ni を ICP-OES で測定しました。 2 に、3 種類のカプセルに含まれる各元素の平均濃度を示しています。この表では、分解後、10 µg/Lを添加したサンプルの添加回収率も示しています。回収率はおおむね添加値の ± 10 % の範囲内でした。この値は、マトリックスによる影響がほとんどないことを示しています。

元素

サンプル濃度
(添加なし) (mg/kg)

添加回収率
(10 µg/L 添加) (%)

Cr

1.08

111.3

As

ND

106.7

Cd

ND

96.5

Pb

0.37

97.0

Be

ND

98.1

Ba

3.06

91.4

Cu

1.62

103.8

Mn

0.33

98.7

Ni

0.13

103.5

ND = 検出されず
表 2. 平均濃度と添加回収率

サンプル

オリジナルサンプル濃度
(mg/kg)

カプセル 1

1.07

カプセル 2

1.03

カプセル 3

1.13

平均

1.08

表 3. 各サンプル中の Cr 分析値。

中国製ゼラチンカプセルで報告された Cr 汚染問題を考慮し、 3 では、3 種類の分解カプセルにおける Cr 測定濃度を示しています。各カプセルではいずれも、中国薬局方(2010 年版) で規定された 2 mg/kg という最大許容限度を大きく下回る分析値が得られました。

また、MDL (3σ) を超える濃度の Pb も検出されましたが、これは定量下限 (10σ) に近い値でした。As、Cd、Be は検出されませんでした。その他の毒性の低い元素の濃度は、Agilent 720 ICP-OES の検出範囲内に十分に収まりました。

Agilent 720 ICP-OES(アキシャル測光プラズマ)を使えば、マイクロ波分解後のゼラチンカプセルサンプルに含まれる超微量有害金属を、高速かつ正確に測定することができます。また、来月号の Access Agilent では、ゼラチンカプセル中のクロム分析に関する別の記事を紹介します。来月号の分析では、可燃性、高価なガスを必要としない原子発光分光計を使用しています。