Access Agilent 2012年11月号

マイクロ波プラズマ原子発光分光分析法による エタノール燃料中 Cr、Ni、Pb、V の簡単な測定

George L. Donati、Renata S. Amais、Joaquim A. Nóbregak
サン・カルロス連邦大学、化学部
Daniela Schiavo
アプリケーションエンジニア、Agilent Technologies Brazil

エタノール燃料は、1970 年代なかごろの最初の石油危機以来、自動車で一般に使用されるようになり、現在でも広く用いられています。燃料中に金属が存在すると、酸化分解反応により、エンジン性能が低下したり、燃料品質が悪化したりすることがあります [1]。この記事では、Agilent 4100 マイクロ波プラズマ原子発光分光分析装置 (MP-AES) を用いたエタノール燃料の直接分析による Cr、Ni、Pb、V の測定方法を紹介します。

使用およびメンテナンスのコストを削減

この装置は、磁気的に結合したマイクロ波エネルギーにより生じる窒素プラズマをベースにしています。そのおもな利点としては、使用やメンテナンスのコストの削減が挙げられます。窒素ガスジェネレータとエアコンプレッサだけで十分に機器を稼働できるため、他のガスソースは必要ありません。最近の研究では、エタノールサンプルをHNO3 1 % v/v 溶液で希釈するだけで、正確な分析結果を簡単に得ることができました。

Agilent 4100 MP-AES のサンプル導入システムは、溶媒耐性チューブ、ダブルパスサイクロニックスプレーチャンバ、および耐溶媒、耐酸アルカリ性の Agilent OneNeb ネブライザで構成されています。水溶液による希釈以外の前処理をおこなわずに、燃料サンプルを直接導入するため、外部ガスコントロールモジュール (EGCM) を用いて空気を窒素プラズマに注入しました。この方法により、トーチおよびプレ光学ウィンドウでの炭素析出を防止しました。空気を注入することで、プラズマを安定させ、バックグラウンド発光を低減する効果も得られます。

簡単なバックグラウンド補正

Agilent MP Expert ソフトウェアのオートバックグラウンド補正機能を用いて、バックグラウンドの自動補正をおこないました。この機能により、各元素のバックグラウンドスペクトルが記録および保存され、差し引かれます。バックグラウンドスペクトルはブランク溶液から得られ、その後、すべての標準溶液およびサンプル溶液から自動的に差し引かれます。また、モニタリングする各波長について、ネブライザ圧力や観測位置などのパラメータを自動的に最適化することもできます。

簡単なサンプル前処理

エタノール燃料サンプル (水和エタノール) をサン・カルロス (サン・パウロ、ブラジル) のガソリンスタンドで入手し、HNO3 1% v/v溶液で 10 倍に希釈しました。HNO3 1 % v/v溶液中にそれぞれ Cr、Ni、Pb、V を含む標準溶液の適量を希釈し、検量線作成に使用する標準溶液を作成しました。各標準溶液にエタノールを加え、最終濃度をエタノール 10 % v/v溶液としました。

優れた検出下限

サンプル分析前に、各元素の分析性能を評価しました。バックグラウンド相当濃度 (BEC)、シグナル/バックグラウンド比 (SBR)、各10 回の連続測定の相対標準偏差から、検出下限 (LOD) と定量下限 (LOQ) を算出しました。

表 1 に、得られた LOD および LOQ を示しています。これらのデータからは、フレーム原子吸光分光光度法 (FAAS) などと比べた場合の 4100 MP-AES の優れた分析性能が見てとれます。マイクロ波プラズマは、特に Cr や V などの難解離性元素で大きな効果を発揮します。こうした元素では、プラズマの温度が高いため、優れた LOD が得られます。亜酸化窒素-アセチレンフレームを用いる FAAS 分析のように特殊なガスを使う必要はありません [2]。

元素

LOD*
(µg/L)

LOQ*
(µg/L)

サンプルのLOD†
(µg/kg)

Cr

0.7

2.2

9

Ni

16

52

200

Pb

40

130

400

V

0.3

0.9

4

* 装置の検出下限と定量下限
† サンプル希釈 (エタノール燃料をHNO3 1 % v/v溶液で10倍希釈) を考慮した検出下限
表 1. MP-AES によるエタノール燃料中 Cr、Ni、Pb、V 測定の基本性能

正確な分析

エタノール燃料サンプルの直接分析の精度を評価するために、添加実験をおこないました。結果を表 2に示しています。分析したすべての元素で、回収率は 92~108 % でした。このことは、有機化合物や Cu、Na、Fe などの共存元素により生じるマトリックス効果が小さいことを示しています。

元素

添加 (µg/L)

検出 (µg/L)

回収率 (%)

Cr

20

21.2 ± 1.2

106

100

95.1 ± 1.2

95

500

460 ± 30

92

Ni

100

95.3 ± 0.8

95

Pb

400

430 ± 10

108

1000

990 ± 10

99

V

20

19.8 ± 1.6

99

100

98.4 ± 1.4

98

500

460 ± 20

92

表 2. エタノール燃料サンプル中 Cr、Ni、Pb、Vの添加回収実験

簡単で効率的なメソッド

Agilent 4100 MP-AES を用いたエタノール燃料の直接分析は、ルーチン分析に適用できる簡単で効率的なメソッドです。3 種類のサンプルを分析したところ、いずれも分析対象元素による汚染は見られませんでした (すなわち、元素濃度が検出下限未満)。HNO3 1 % v/v溶液を用いた簡単な希釈だけの操作により、Cr、Ni、Pb、V を正確に測定できました。EGCM により、トーチとプレ光学ウィンドウでの炭素析出が防止され、バックグラウンドシグナルの低減および精度向上という効果が得られました。

この分析の詳細と装置条件については、アジレントアプリケーションノート 5991-0771EN に掲載しています。
(日本語版を準備中です。2012.11月末現在)

References

  1. Oliveira, M. F., Saczk, A. A., Okumura, L. L., Fernandes, A. P., Moraes, M. & Stradiotto, N. R. (2004). “Simultaneous determination of zinc, copper, lead, and cadmium in fuel ethanol by anodic stripping voltammetry using a glassy carbon-mercury film electrode.” Anal. Bioanal. Chem., 380, 135–140.
  2. Amorim, F. A. C., Welz, B., Costa, A. C. S., Lepri, F. G., Vale, M. G. R. & Ferreira, S. L. C. (2007). “Determination of vanadium in petroleum and petroleum products using atomic spectrometric techniques.” Talanta, 72, 349–359.