Access Agilent 2012年7月号

HPLC-ICP-MS 法による食品中の水銀のスペシエーション

Sébastien Sannac
アジレントアプリケーションエンジニア ICP-MS
Yu-Hong Chen
アジレントアプリケーションエンジニア ICP-MS
Raimund Wahlen
アジレント ICP-MS プロダクトスペシャリスト
Ed McCurdy
アジレント ICP-MS プロダクトマーケティング

水銀は、生物にとってもっとも毒性の高い元素の 1 つです。そのため、信頼性の高い定量分析がきわめて重要となります。水銀の環境中の濃度は比較的低いのですが、食物連鎖をつうじて濃縮され、一部の食品中では、最終的な濃度がきわめて高くなることがあります。また、水銀の毒性は、トータルの水銀濃度と化学種の両方によって決まります。そのため、食品分析において、人体に対する水銀の毒性を完全に評価するためには、水銀のスペシエーション(形態別分析)が必要となります。Agilent 7700x ICP-MS を使えば、高速で簡単な水銀スペシエーションが実現します。一部の ICP-MS 機器ではプラズマの安定性が問題となる、グラジエント HPLC 分析と組み合わせることも可能です。

水銀の分析では低い検出下限が求められるため、おもに GC-ICP-MS メソッドが用いられます。しかし、最先端の ICP-MS システムは感度が向上しているため、最近では、HPLC を用いた低濃度の Hg のスペシエーションも実用的な選択肢となっています。HPLC と ICP-MS の組み合わせは、両機器の接続が簡単であるという点で魅力的です。また、GC 分析とは異なり、水銀の誘導体化をおこなわずに、サンプルを直接 HPLC システムに注入できます。サンプルを直接注入することにより、サンプル前処理が大幅に簡略化され、化学種の変化の可能性を最小限に抑えられるほか、分析手順全体のコストも削減できます。

グラジエント HPLC でも堅牢な HPLC-ICP-MS 分析

まず、食品サンプル中水銀のスペシエーション分析における HPLC-ICP-MS システムを評価しました。毒性という点で問題となる化合物は、おもに無機水銀 (Hg2+) とメチル水銀 (MeHg+) ですが、本研究では、エチル水銀 (EtHg+) やフェニル水銀 (PhHg+) など、局所的に存在する可能性のある他の水銀種にまでメソッドの対象範囲を拡張しました。

Agilent 1260 Infinity LCを用いて、メタノール 2 % で開始し 1 分後にメタノール 90 % となる溶媒グラジエントにより、クロマトグラフィ分離をおこなうことができました。Agilent 7700x ICP-MS を用いて、推奨される同位体である201Hg で水銀を測定しました。

グラジエント条件下での水銀種の分離と良好な ICP-MS 検出結果。

図 1. グラジエント条件下での水銀種の分離と良好な ICP-MS 検出結果(図を拡大)。

グラジエント条件下での水銀種の分離と良好な ICP-MS 検出結果。

図 1. グラジエント条件下での水銀種の分離と良好な ICP-MS 検出結果。

種類の水銀種分析の検量線は、優れた直線性を示しています。

図 2. 4.種類の水銀種分析の検量線は、優れた直線性を示しています (図を拡大)。

種類の水銀種分析の検量線は、優れた直線性を示しています。

図 2. 4.種類の水銀種分析の検量線は、優れた直線性を示しています。

このグラジエント溶出法により、4 つすべての水銀種を 3 分未満で分離することができました ( 1)。また、7700x ICP-MS プラズマ RF ジェネレータの高周波数マッチング機能のおかげで、高速メタノールグラジエントでもプラズマの安定性は乱されませんでした。

サンプル抽出物の分析に先立ち、約 100 ng/L (ppt)~10 µg/L (ppb) の 4 種類の水銀種の混合物を用いて、検量線を作成しました。 2 に、検量線とバックグラウンド相当濃度 (BEC) を示します(検量線ブランクとして移動相を使用)。すべての水銀種で、BEC は 20 ng/L 未満でした。この低い BEC は、移動相に起因する汚染がほとんどなく、このシステムにより低濃度の水銀を検出できることを示しています。

メソッドの有効性を証明する優れたサンプル分析結果

この研究では、最適なグラジエント溶出メソッドを用いて、2 つの認証参照物質 (CRM) を 3 回繰り返し分析しました。各 CRM について、n=3でサンプルを抽出しました。また、操作ブランクを測定したところ、測定可能な汚染物質は検出されませんでした。 1 に、サンプルの分析結果を示します。

BCR-464 (マグロ筋肉)

Dolt-4 (サメ肝臓)

 

MeHg+

Hg2+

MeHg+

水銀測定値 (mg/kg)

4.93

1.17

1.34

RSD (%)、n=3

8

8

10

認証値 (mg/kg)

5.12 ± 0.16

(1.25)*

1.33 ± 0.12

回収率 (%)

96

94

101

*認証値ではありません

表 1. CRM サンプルの分析結果は、認証値と良好に一致しています。

MeHg+ では、いずれのサンプルでも測定値が認証値と良好に一致し、この新メソッドの有効性を実証する結果となりました。特に、MeHg+ 含有量が総水銀量のわずか 52 % である Dolt-4 サンプルで測定値と認証値が良好に一致したことから、この前処理手法によって抽出の際にもHgの形態が変化せずに保たれていることがわかります。

高速 HPLC グラジエントでもプラズマが安定

以上のことから、本研究で用いた食品サンプル中水銀種分析用の高速かつ高効率のグラジエント HPLC-ICP-MS メソッドにより、分析対象となる 4 つの水銀種を 3 分未満で完全に分離することができました。Hg 種の回収率も、認証値と比べて良好なものでした。

メタノール 10%から90 % までの高速グラジエントに対応する Agilent 7700x ICP-MS の高周波数マッチング RF ジェネレータにより、プラズマの安定性に悪影響を与えずに水銀種を分離することが可能になっています。

有機溶媒と ICP-MS を用いた HPLC 分離をおこなう場合には、アプリケーションノート (5991-0066EN) の完全版をダウンロードし、研究の詳細をご確認ください。

謝辞

CRM抽出物の前処理にご協力いただいた国立計測実験研究所 (LNE、フランス) の Guillaume Labarraque 氏と Caroline Oster 氏に感謝します。