モノクローナル抗体などの複雑な生体分子の組み換えタンパク質の製造過程では、荷電バリアントが生じることがあります。荷電バリアントは、元の物質ときわめて近い関係にある不純物で、副反応の影響で荷電が異なります。これらの副反応には、C 末端リジンの喪失、アミド化、脱アミド、グリカンのシアリル化の程度の変動などが考えられます。こうした荷電バリアントの分離には、非変性条件下でタンパク質がインタクト状態に保たれるイオン交換が適しています。この手の分離には従来、カチオン交換吸着剤を充填した 4.6 x 250 mm のイオン交換カラムが使われていますが、多くの場合、弱カチオン交換カルボキシメチル (CM) 吸着剤が使われます。これは、この吸着剤では選択性の違いという利点が得られるためです。バッファ強度、pH、塩グラジエントなどのパラメータを調整すれば、良好な分離能が得られますが、こうした分離には、30 分あるいは、場合によっては 40 分を超える時間がかかることもあります。
図 1. 20 分グラジエントを用いた Agilent Bio WCX NP5、4.6 x 250 mm と Bio WCX NP3、4.6 x 50 mm における標準タンパク質分離の比較 (図を拡大)。
しかし、Agilent 1260 Infinity Bio-inert LC システムと最新の Agilent Bio IEX カラムおよび Bio MAb カラムの利点を活用すれば、分析時間を大幅に短縮し、スループットを高めることが可能です。
高効率分離を実現する Agilent Bio IEX カラム
通常、長さ 250 mm のカラムには、カラムの背圧を最小限に抑えるために、5~10 µm サイズの粒子が充填されています。Agilent Bio IEX カラムは、非多孔性粒子技術を用いて、多孔性粒子で見られる粒子内の拡散効果を排除することで、分離効率を高めています。Bio IEX カラムは、ステンレス製と PEEK 製 (金属の影響を受けやすいアプリケーション用) の両タイプが提供されており、充填剤には強アニオン、弱アニオン、強カチオン、弱カチオン交換があります。
1.7 または 3 µm 粒子を用いれば分離効率を高めることができますが、その場合は短いカラムが必要になります (4.6 x 50 mm)。長いグラジエント時間を用いる場合でも、NP1.7 および NP3 粒子の表面積の大きさ (および、それによる官能基密度の高さ) により、図 1に示すような優れた分離能が得られます。
Bio MAb HPLC カラム – 効率的な荷電分離に特化した設計
Agilent Bio MAb HPLC カラムは、抗体分析の選択性が向上するように特別設計されています。最適化されたカルボン酸表面をもつこの弱カチオン交換カラムは、等電点分離手法で優れた結果を実現します。
弱カチオン交換カラムなどで得られる選択性の違いをさらに活用するために、溶出プロフィールとして pH グラジエントを選択しました。モノクローナル抗体の分離では、pH グラジエント溶出を用いた例は数多くありますが、その多くは、きわめて複雑なバッファシステムを用いるものです。
このプロセスを簡単にするために、アジレントの新しい Buffer Advisor ソフトウェアプログラム (図 2) と、Agilent 1260 Infinity Bio-inert LC システムのクォータナリポンプ機能を使用しました。分離結果を図 3に示しています。
図 2. Agilent Buffer Advisor ソフトウェアのスクリーンショット (図を拡大)。
図 3. pH グラジエントを用いた Agilent Bio MAb NP5、4.6 x 250 mm によるモノクローナル抗体等電点分離(図を拡大)。
図 4. pH グラジエントを用いた Agilent Bio MAb NP1.7、4.6 x 50 mm によるモノクローナル抗体等電点を利用した高速分離
(図を拡大)。
高速分離により生産性を向上
小さい粒子サイズと短いカラムを使えば、スループットを高め、全体的な分析時間を短縮することが可能です。カラムボリュームの減少を考慮に入れておけば、カラムサイズ (250 mm vs. 50 mm) の簡単な比較により、グラジエントを修正することが出来ます。しかし、カラムを選択する際には、モノクローナル抗体分析で見られる、きわめて近い等電点を持つタンパク質を分離する必要性も考慮する必要があります。
図 4 (上) は、必要な分離能を得るために、グラジエントを最適化した経緯を示しています。