Access Agilent 2012年3月号

拡散反射 Agilent Cary 630 FTIR による医薬品有効成分の定量分析

Frank Higgins
アジレント R&D アプリケーションケミスト

Alan Rein
アジレント マーケッティングマネージャ

フーリエ赤外分光光度法(FTIR)は、世界中の薬局方で定められた医薬品分析の手法として、製薬業界で広く用いられています。他の分光光度法と同じく、定量分析をおこなうことが可能で、固体および液体状態での医薬品成分の濃度を分析することができます。医薬品分析においては、小型で堅牢、かつ優れた生産性を備えた FTIR が理想的です。世界最小で最軽量、かつ生産性のもっとも高いルーチン FTIR である Agilent Cary 630 FTIR は、そうした要件を満たす唯一のシステムです。

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FTIR 分光法では、多くの場合、サンプル前処理とサンプリング手法が測定の成否を左右します。固体サンプルの場合、サンプルを混合した臭化カリウム (KBr) 粉末を加圧して錠剤を作成し、これを透過法にて測定する方法が一般的に用いられます。この測定手法では、混合状態や KBr 錠剤の大きさにばらつきが生じるため、定量分析には適していません。

簡便性や分析精度、測定スピードを高めるために、固体の医薬品化合物の分析では、別の FTIR サンプリング手法が用いられるようになっています。なかでも広く用いられているのが、全反射吸収法 (ATR) と拡散反射法 (DRIFT) です。

この記事では、Agilent Cary 630 FTIR システムを用いた DRIFT メソッドについて、粉末サンプルの定量測定における有効性を検証しています。賦形剤の存在下でコーンスターチ中のアセトアミノフェンを測定し、医薬品有効成分 (API) を分析しています。

医薬品成分の優れた分析を実現

Cary 630 FTIR は、堅牢で使いやすい超コンパクトなシステムです。サンプリング技術が最適化されているため、製薬業界の QA/QC、分析サービス、メソッド開発に特に適しています。アタッチメントを交換できるので、ATR による定性的なサンプル同定から拡散反射による定量分析に簡単に切り替えることができます。また、アジレント独自の DialPath 技術も利用できます。この技術により、液体サンプルの定量および定性分析も、固体サンプルと同様に簡単かつスピーディになります。CFR 21 パート 11 対応ソフトウェアと自動 IQ/OQ 機能も備えた Cary 630 は、医薬品分析に最適なシステムです。

定性分析では、KBr 錠剤透過法の代わりに、Cary 630 ATR アタッチメントを用いると効果的です。この測定手法を用いれば、前処理を一切おこなわずに、固体サンプルを迅速に測定することができます。

粉末固体や粗粒固体の定量分析には、サンプル前処理が簡単で、定量の精度も高い Cary 630 DRIFT (拡散反射) 法が最適です。拡散反射法では、拡散反射光が数度にわたってサンプル粒子と相互作用したのちに、集光鏡にて集光されます。この複数回の相互作用によりサンプリングボリュームが大きくなるため、不均質な混合物に伴う問題を軽減することができます。一部のケースでは、吸光度の高いサンプルを KBr で希釈してから分析しますが、この手法の粉末混合物の場合はサンプル容器に入れるだけで済むので、錠剤を作成する従来の透過法のような前処理の手間を省くことができます。

優れた定量測定を実現する拡散反射法

Cary 630 の機器性能を検証するために、コーンスターチ中のアセトアミノフェン濃度が 0~10 % の 5 種類の標準サンプルを作成しました。これらのサンプルを 2 つのロットに分けました。1 つ目のロットは、KBr 粉末を用いて 1:10 (サンプル : KBr) の比率で希釈してから分析しました。2 つ目のロットは、サンプル前処理を一切おこなわずに、そのまま分析しました。すべての測定は、拡散反射アタッチメントを備えた Agilent Cary 630 FTIR を用いておこないました。

図 1 に示すように、5 つの希釈した標準サンプルの測定結果では、もっとも強い吸収において、吸光度 0.6~0.8 という最適な値が得られました。検量線を図 2 に示しています。この検量線は優れた直線性を示し、相関係数は 0.999 です。この分析の詳細については、アジレントアプリケーションノート 5990-9414JAJP に記載されています。

KBr 粉末で希釈後に拡散反射法にて測定した、コーンスターチ中アセトアミノフェンの標準サンプルスペクトルにおけるカルボニル領域の拡大図

図 1. KBr 粉末で希釈後に拡散反射法にて測定した、コーンスターチ中アセトアミノフェンの標準サンプルスペクトルにおけるカルボニル領域の拡大図 (図を拡大)。

KBr 粉末で希釈後に拡散反射法にて測定した、コーンスターチ中アセトアミノフェンの標準サンプルスペクトルにおけるカルボニル領域の拡大図

図 1. KBr 粉末で希釈後に拡散反射法にて測定した、コーンスターチ中アセトアミノフェンの
標準サンプルスペクトルにおけるカルボニル領域の拡大図

KBr で 1:10 に希釈したサンプルにおけるアセトアミノフェンの検量線では、優れた直線性が得られています

図 2. KBr で 1:10 に希釈したサンプルにおけるアセトアミノフェンの検量線では、優れた直線性が得られています (図を拡大)。

KBr で 1:10 に希釈したサンプルにおけるアセトアミノフェンの検量線では、優れた直線性が得られています

図 2. KBr で 1:10 に希釈したサンプルにおけるアセトアミノフェンの検量線では、優れた直線性が得られています

希釈なしで拡散反射法にて測定した、コーンスターチ中アセトアミノフェンの標準サンプルスペクトルにおけるカルボニル領域の拡大図

図 3. 希釈なしで拡散反射法にて測定した、コーンスターチ中アセトアミノフェンの標準サンプルスペクトルにおけるカルボニル領域の拡大図
(図を拡大)。

希釈なしで拡散反射法にて測定した、コーンスターチ中アセトアミノフェンの標準サンプルスペクトルにおけるカルボニル領域の拡大図

図 3. 希釈なしで拡散反射法にて測定した、コーンスターチ中アセトアミノフェンの
標準サンプルスペクトルにおけるカルボニル領域の拡大図

2100 cm-1 の吸収を基準に 1600~1500 cm-1 におけるアセトアミノフェン由来の吸収強度比を用いて作成した検量線。拡散反射法により未希釈サンプルを分析

図 4. 2100 cm-1 の吸収を基準に 1600~1500 cm-1 におけるアセトアミノフェン由来の吸収強度比を用いて作成した検量線。拡散反射法により未希釈サンプルを分析
(図を拡大)。

2100 cm-1 の吸収を基準に 1600~1500 cm-1  におけるアセトアミノフェン由来の吸収強度比を用いて作成した検量線。拡散反射法により未希釈サンプルを分析

図 4. 2100 cm-1 の吸収を基準に 1600~1500 cm-1 におけるアセトアミノフェン由来の吸収強度比を用いて作成した検量線。
拡散反射法により未希釈サンプルを分析

同じ 5 つの標準サンプルを、KBr 粉末で希釈せずに測定しました。各標準サンプルのスペクトルを図 3 に示しています。コーンスターチの CO 由来の吸収の倍音にあたる 2100 cm-1 の吸収強度を基準に、1559 cm-1 におけるアセトアミノフェン由来の吸収強度比を用いて検量線を作成しました。図 4 に示す検量線では、1.000 という完璧な相関係数が得られています。

拡散反射法は、固体および粉末の医薬品サンプルの定量分析に適した測定手法です。この測定手法を用いることで、従来の透過 FTIR 測定のように、KBr 錠剤を作成する必要がなくなります。この測定例では、未希釈サンプルにおいても、希釈サンプルと同じ精度の検量線が得られました。これは、希釈をおこなわなくても有効成分の吸収が直線性のある範囲内に収まっているためです。API と賦形剤の吸光度が強すぎて直線性が得られないケースでは、粉末 KBr を用いた簡単な希釈だけで、正確な定量測定を行うことが可能です。

交換可能で使いやすいアタッチメントを備えた Agilent Cary 630 FTIR は、製薬業界の定性および定量分析に最適です。拡散反射法は固体の定量分析に、ATR は固体の定性分析に、DialPath は液体サンプルの定性および定量分析に適しています。Agilent Cary 630 FTIR の詳細については、アプリケーションノートの完全版をご覧ください (アジレント文献番号 5990-9414JAJP)。