タンパク質生物製剤は、いまや製薬業界の研究開発の大部分を占めています。タンパク質生物製剤が成功しているおもな理由は、特異性の高さにあります。また、関節リウマチ、癌、糖尿病といった慢性疾患をより安全かつ効果的に治療することができます。モノクローナル抗体 (MAbs) は、医薬品としてもっとも広く使われているタンパク質です。その開発には、目的とするリガンドに対するきわめて高い親和性のほか、きわめて高い特異性や低い交差反応性といった特徴をもつモノクローナル抗体の産生と精製が求められます。そうした目標の達成を支援するのが、Agilent 自動化ソリューションです。
ファージディスプレイは、創薬プロセスで MAb 候補を産生するためにもっとも広く用いられている、もっとも堅牢な手法です。きわめて多様な抗体種を産生することができ、そうしたクローンライブラリを短い時間でスクリーニングすることが可能です。ファージディスプレイは、簡単かつ迅速に、高い費用をかけずに創薬ワークフローに導入することができ、自動化にも対応可能です。
図 1. ファージライブラリからスクリーニングした抗体のクローニング、発現、精製、キャラクタライゼーション。Agilent BioCel システムと AssayMap Bravo マイクロクロマトグラフィプラットフォームを使えば、この手順をすべて自動化できます [1] (図を拡大)。
図 2. AssayMAP Bravo マイクロクロマトグラフィプラットフォームのAssayMAP プロテイン A カートリッジにおける精製原理。プロテイン A が中性 pH で MAb を捕捉します。その後、酸性バッファにより、MAb が低 pH で溶出します
(図を拡大)。
ファージディスプレイのワークフローの概要
目的の表現型 (このケースではターゲットの親和性と特異性) を選択するには、ランダムに突然変異した抗体配列の大規模なライブラリを、表面タンパク質をコードするファージ遺伝子に挿入します。ライブラリを構築するには、多数の scFv または Fab 抗体遺伝子を人工のファージまたはファージミドベクターにクローニングします。これらが最終的に、バクテリオファージの表面で発現します。
クローニングと発現ののちに、目的の抗原に対する抗体を発現するファージをスクリーニングして選択します (図 1)。各抗原をマイクロプレートのウェルに結合させ、ファージ発現した抗体と結合するウェルを探します。結合していないファージを洗浄により除去し、マイクロプレートから溶出させたら、抗原と結合するファージを回収します。複数回のスクリーニングののちに、候補のクローンを同定および処理し、さらなるキャラクタライゼーションをおこないます
多くの場合は、最高の親和性と特異性をもつファージの組み換え DNA を解析し、重複を除去します。その後、それを哺乳類細胞にトランスフェクションします。これにより得られたクローンをマイクロプレート内で成長させ、IgG 抗体または抗体フラグメントを産生させます (図 2)。分泌された抗体を含む上澄みをふたたび分析し、親和性と特異性を確認したのち、プロテイン A クロマトグラフィにより精製します。これらの手順のほとんどは、自動化することが可能です。
ワークフロー自動化の利点を示すケーススタディ
ある大手製薬会社は、トランスフェクション、インキュベーション、抗体を含む細胞上澄みの採取などのこれらのクローニングや精製手順に、Agilent 自動化ソリューションを導入しました。この会社は、Agilent BioCelおよび AssayMAP Bravo マイクロクロマトグラフィプラットフォームを使用しています。BioCel は、きわめてコンパクトな設計ながら、マイクロプレートベースのあらゆるプロトコルを自動化し、最大限の無人分析時間とスループットを実現します。モジュール構成、さまざまなエンクロージャオプション、環境管理機能を備えた BioCel は、個別のニーズに応じてカスタマイズすることができます。
収量は手動メソッドに匹敵します。BioCel システムでは、96 ウェルプレートから、密度の低い 24 および 48 ウェルプレートに効率的にフォーマットを変更することができるので、より大きな細胞体積に対応したり、成長率や収量を高めたりすることが可能です。手動の場合、このプロセスは困難で、エラーが生じやすくなります。
ワークフローの最後の手順は、大量の MAb 候補を精製し、抗体の特徴を完全に分析し、機能アッセイをおこなうことです。AssayMAP Bravo マイクロクロマトグラフィプラットフォームを使えば、ハイスループットの少量精製が実現します。このプラットフォームは、各 5 µL の樹脂が付属する (このケースの場合、IgG と結合するプロテイン Aレジン) 96 ウェルフォーマットの AssayMAP マイクロクロマトグラフィカートリッジと、カートリッジや Bravo 用のディスポ―サブルチップを取り付けることができる新しい容積移送式リッキッドハンドリングヘッドで構成されています。
このプラットフォームは、少量の抗体を迅速かつ定量的に前処理し、分析的なキャラクタライゼーションや機能アッセイに対応できる優れた自動化ツールです。他のシステムとは異なり、AssayMAP Bravo プラットフォームでは、最小限の最適化でも、きわめて良好な回収率が実現します (表 1参照)。
|
精製チップ |
精製プレート |
磁気ビーズ |
AssayMap Bravo |
回収率 |
20-30% |
10-15% |
20-30% |
65-84% |
自動化 |
可 |
準備中 |
半可能 |
完全対応 |
投入量 |
20 µg 以上が必要 |
-- |
20 µg 以上が必要 |
5 µg |
表 1. AssayMAP Bravo マイクロクロマトグラフィプラットフォームと他の精製システムのお客様による比較
Agilent BioCel および AssayMAP Bravo マイクロクロマトグラフィプラットフォームを使えば、任意の抗体ファージディスプレイクローンから得た IgG のクローニング、産生、精製において、高速で信頼性の高い、ハイスループットな自動化が実現します。AssayMap Bravo プラットフォームでは、投入量が少ない場合でも、完全に自動化されたフォーマットにより、細胞株上澄みの IgG を優れた回収率で回収します。回収率は一貫して 80 % 前後で、メソッドのコストもきわめて安価です。詳細については、この技術に関するホワイトペーパーの完全版をご覧ください。
脚注