Access Agilent 2011年7月号

お客様の事例: 衰弱性寄生虫疾患の診断をフィールドへ移行する研究者たち

John Kimmel
アジレント LC アプリケーションサイエンティスト

カリフォルニアの研究チームが、Agilent 1290 Infinity LC システムPoroshell 120 カラムを用いて、LC/MS メタボロミクスベースのオンコセルカ症 (河川盲目症) 診断手法を開発しました。

この診断手法は、流行地域および非流行地域でオンコセルカ症の広がりを監視し、この顧みられない熱帯病との闘ううえで、不可欠なツールになる可能性を秘めています。

「診断が向上すれば、薬の分配効率も上がり、ひいては病気の撲滅につながります」とスクリプス研究所の寄生虫研究医療研究所で研究技術者を務める Ashlee Nunes 氏は述べています。「みんなが幸せになれます……寄生虫を除いては」

課題: 堅牢性、感度、再現性の高い診断検査の開発

オンコセルカ症 (河川盲目症) は、アフリカや中南米、イエメンで 3700 万人が感染している熱帯病で、それ以外にも、8900 万人が感染の危険にさらされています。この病気の原因は、寄生線虫である回旋糸状虫です。この寄生虫は、ブヨに咬まれることでヒト宿主に感染します。その名が示すとおり、失明に至ることがあり、急性皮膚炎も引き起こします。

この病気は、イベルメクチンで治療できます。しかし、現在の診断手法は、感染の程度を測定するには不十分なものであるため、薬の効率的な分配は困難です。そのため、スクリプス研究所のチームは、より感度の高い診断手法の調査に乗り出しました。この診断手法は、メタボロミクスによるオンコセルカ症マーカーの発見をベースにしたものです。

図 1. 14 のオンコセルカ症バイオマーカー候補における MS ピーク強度値の PCA ファクタースコアプロット (図を拡大)

研究開始からほどなくして、代謝性疾患の診断手法として、感度や定量再現性の高いLC/MS に注目が集まりはじめました。

スクリプス研究所のチームは、このチャンスを見逃しませんでした。Nunes 氏は次のように説明しています。「MS はすでに、新生児の代謝性疾患の診断に使われており、他の疾患アプリケーションでも広く使用されるようになっていました。そこで、わたしたちは、これを寄生虫疾患に応用したらどうかと考えました」

Nunes 氏は続けて、次のように述べています。「わたしたちの仮説は、簡単な前提にもとづいていました。まず、感染している人としていない人の血液サンプルをスクリーニングしてから、統計的に有意な代謝上の差異を調べる、というものです」

探索段階: 統計的に信頼できるデータをはじめて収集

探索 (非ターゲットプロファイリング) 段階では、感度と再現性が重要となります。というのも、目的のバイオマーカーは、他の代謝物に比べると、低い濃度で存在することがあるからです。そのため、スクリプス研究所のチームは、LC/MS メタボロミクスベースのオンコセルカ症診断手法の開発において、以下の 2 つの基本的な課題を克服しなければなりませんでした。

・ 圧力曲線の再現性が低いと、リテンションタイムが変動し、統計解析全体が損なわれるおそれがある。

・ 分析時間が長くなると、機器の変動が大きくなるまでに分析できる 1 シーケンスあたりのサンプル数が制限される。

「サンプル量がきわめて制限されているので、複数回の分析をおこなう余裕はありません」と Nunes 氏は述べています。「各シーケンス全体で 1 回の注入を比較するために、メソッドの再現性を高くする必要がありました」。また、プロファイリング中に m/z 値と RT(保持時間)値が大きく変動すると、統計解析において、重要なマーカーを見落としたり、重要でないマーカーを重視しすぎたりすることにつながります。

スクリプス研究チームが開発した発見メソッドは、1 サンプルあたりの総分析時間が 120 分で、うち 60 分が分析時間、60 分が洗浄平衡時間です。これにより、分析スループットが 1 日あたり約 10 サンプルとなりました。このメソッドを 73 人のアフリカ人の血清血漿サンプルの分析に応用したところ、Ov+ サンプルと Ov- サンプルの間で良好な違いを示す 14 のバイオマーカーが明らかになりました (図 1)。

図 2.アシュリー博士は以下のようにコメントしています。Agilent 1290 Infinity LCシステムの再現性と感度に優れたデータにより、衰弱性寄生虫疾患に関する低分子バイオマーカー診断のバリデーションに成功しています。

バリデーション段階: 感度と再現性を犠牲にせずにスループットを高める

バイオマーカーのバリデーションでは、目的のマーカーがオンコセルカ症の真のマーカーであり、地理的条件や食事などの要因によるバイアスがかかっていないことを確認するために、より多くのサンプルセットが必要となります。そのため、感度と再現性はやはり重要ですが、第 3 の要素、すなわちスピードを考慮する必要がありました。そこで、スクリプス研究チームは、Agilent 1290 Infinity LC (図 2) と Agilent Poroshell 120 カラムを組み合わせました。この強力な組み合わせにより、より高い圧力での分析が可能になりました。その結果、カラムの粒子サイズを小さくし、流速を 1 mL/min に上げることができました。

その成果はすばらしいものでした。オリジナルメソッドの 6 分の 1未満の時間で、14 あるすべてのバイオマーカーを確認することができたのです。サンプル分析の圧力トレースの重ね表示により、変動が最小限に抑えられていることも確認されました。

「最適化したバリデーションメソッドでは、数日のあいだに、330 近いサンプルを分析できました」と Nunes 氏は述べています。「オリジナルメソッドを使用したら、1 か月はかかっていた数です」

オンコセルカ症のない未来に向けて

オンコセルカ症 (およびその他の顧みられない熱帯病) の撲滅は、究極的には、疾患の治癒や再発を測定および追跡する能力にかかっています。そのためには、従来の静脈穿刺に代わる、指先穿刺/毛細管採取を用いたハイスループット (できれば自動) のサンプル採取メソッドが求められます。Nunes 氏は、それが成功するものと信じています。

「医療従事者は最終的に、最適化されたバイオマーカーを、治療場所での診断や長期的な調査に用いるフィールドベースの技術に移植できるようになるでしょう」と Nunes 氏は述べています。

「わたしたちの研究により、その目標に向けて、一歩前進することができました」

Agilent 1290 Infinity LC システム が、ラボの分析上の問題を解決します。
Agilent Poroshell 120 カラムを使えば、ラボのあらゆる LC/MS が向上します。寄生虫疾患研究の最新状況については、スクリプス研究所寄生虫研究所の Web サイトをご覧ください。