Access Agilent 2011年1月号

ICP-MS による無希釈尿の微量元素分析

Glenn Woods
アジレント ICP-MS アプリケーションケミスト

ICP-MS は、さまざまな種類の臨床および生体サンプルの微量元素分析法として、従来用いられていたファーネス原子吸光分析 (GFAAS) から急速に切り代わっています。ICP-MS にはもともと以下のような 課題が残っていました。

  • 臨床サンプルの総溶解固形分 (TDS) の含有率が高いため、シグナル抑制、シグナルドリフト、
    頻繁な定期メンテナンスの必要性が生じる。

  • As、Cr、Cu、Se、V、Zn などのいくつかの主要元素が、アルゴンまたはマトリクスベースの
    多原子干渉によって損なわれる。

  • 臨床ラボでは、正確さと操作簡便性を損なうことなくハイスループット能力が必要な場合がある。

最近の研究で、ヒトの尿サンプルのルーチン分析において Agilent 7700x ICP-MS とインテグレートサンプル導入システム (ISIS-DS) の性能を評価しました。この目的は、サンプルスループット向上とデータ品質の両方を最適化しながら、サンプル前処理を最小限にすることです。

サンプル前処理を簡略化することで時間と試薬を節約

ICP-MS 技術の進歩によって、サンプル前処理の再評価と簡略化が可能になります。例えば、ICP-MS マトリクス耐性の改善によって、サンプルの希釈ステップを省くことができ、時間と試薬を節約しサンプル汚染を軽減することができます。同様に、コリジョン/リアクションセル技術の開発によって、ほとんどすべての種類のサンプルに単一の He モードメソッドを適用することが可能になります。新しいサンプルマトリクスまたは異なるサンプルマトリクスの広範なメソッドを開発する必要ありません。アジレントでは、無希釈尿サンプルのルーチン分析の性能を評価するために、高マトリクス導入 (HMI) キットを搭載した 7700x ICP-MS を構成し、オプションの ISIS-DS アクセサリを用いて分析を行いました。

 Elemental and
 organic content
 Concentration
 Na  5000 mg/L
 K  1200 mg/L
 Ca  200 mg/L
 Mg  70 mg/L
 P  400 mg/L
 Urea  15 g/L
表 1.尿サンプルの一般的な含有物 。

高含有率の総溶解固形分の解消

従来の ICP-MS の最大 TDS 濃度は 2000 ppm (0.2%) です。尿サンプルは非常に変動性がありますが、通常はそれよりかなり高濃度の塩と有機成分を含有しています (表1)。そのようなサンプルを ICP-MS で測定するには、以下のような前処理が必要です。

  • TDS を 2000 ppm 未満に軽減するための希釈。ただし、
    この希釈によって希釈液からの汚染が生じることがある。

  • 液液抽出、固相抽出 (SPE)、クロマトグラフィ、水素化物生成
    などの技術を用いたマトリクス除去。ただし、これには時間が
    かかり、個別のサンプル前処理が必要となることが多い。

  • 高マトリクス導入 (HMI)。ガスを用いて「希釈」し、従来の ICP-MS で
    対応できる濃度よりも かなり高い濃度の TDS を含むサンプルの直接分析が可能となる。

  • ISIS-DS。サンプルループのサンプルを分析するタイミングだけ導入し、
    プラズマへの総サンプル導入量を軽減しサンプルスループットを増加させる。

ISIS-DS を用いた高いサンプルスループット

Agilent ISIS-DS は、サンプルループが付いた 6 ポートインジェクションバルブで構成されています。「ロード」 ポジションでサンプルがループを満たし、過剰分は直接廃棄されます。同時にキャリアフローは ICP-MS ネブライザに送りこまれます。バルブが切り替わると、ループ内のサンプルはネブライザに送られて一時的な定常状態シグナルになります。ICP-MS は、定常状態シグナルが発生している間、反復多元素測定が可能になります。シグナル継続時間はループ量を変えることで容易に調整することができます。事実上、ISIS-DS は、取り込みおよび洗浄時間を削減し、分析時間を大幅に短くすることが可能です。ICP-MS インターフェイスに達するサンプルマトリクスが少なく、マトリクスの導入量も減少するため、シグナルドリフトとメンテナンスが最小限になります。標準的な合計分析時間は、元素リストとループサイズに応じて 1 ~ 3 分です。これは通常の (連続) サンプル導入の 2 ~ 3 倍の速さです。

図 1.規格化された内部標準の回収率は、分析全体を通して安定した性能を示しています(図を拡大) 。
図 2. 51V (上) と 238U (下) のサンプルバッチの最初と最後からの合成キャリブレーションプロットは、優れた直線性と再現性を示しています(図を拡大) 。

ヒト尿の直接分析

7700x ICP-MS システムをテストするために、0.1% HNO3 を使って 14 のヒト尿無希釈サンプルを酸性化し繰り返し分析しました。ヘリウムコリジョンモードで動作するオクタポールリアクションシステム (ORS3) (干渉除去用)、HMI (マトリクス耐性用)、ISIS-DS (高サンプルスループット用) とともに 7700x ICP-MS を使用して、以下の分析を行いました。

  • 再現性と長期安定性をテストするために
    14 の尿サンプルを繰り返し分析

  • 各サンプル分析で 21 の同位体を測定
    (分析対象化合物と内部標準)

  • 各サンプルを 1 分 32 秒間のみ分析

  • 320 のサンプルシーケンスの前後に
    キャリブレーション標準試料を分析

これらの分析の結果、安定した再現可能な結果が得られました。

この結果を見ると、7700x ICP-MS では、分析が困難なサンプルマトリクスでも優れた性能を維持できたことが示されています。規格化した内部標準 (IS) 回収率 (図1) は、感度の低下やシグナルドリフトがなく、シーケンス全体にわたってインターフェイスやレンズ上にマトリクス沈着がなかったことを示しています。

検量線でも、同様に一貫した性能が証明されました。サンプルシーケンスの前後に 7700x ICP-MS をキャリブレーションしました。図 2 に示したキャリブレーションプロットは、V (干渉を受ける低質量分析対象物) と U (高質量分析対象物) の内部標準補正を使用する場合と使用しない場合における標準セットの合成です。検量線の直線性と再現性は、ヘリウムモードの ORS3 が質量 51 の V で ClO 干渉をうまく取り除いたことを証明しており、シーケンス全体を通してシグナルドリフトがなかったことをここでも確認することができます。

要約すると、HMI と ISIS-DS を搭載した 7700x ICP-MS は、無希釈尿サンプル分析に対して優れた安定性と再現性を示しました。7700x ICP-MS の標準になっている HMI では、無希釈尿の直接定量が可能になり、オプションの ISIS-DS により、サンプルスループットが大幅に向上しました。分析が困難なサンプルマトリクスで優れた性能が必要な場合には、7700x ICP-MS に関する詳しい情報を収録したアジレントのビデオをご覧ください。

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