エタノールは新しいエンジン燃料として世界的に使われています。新しい技術ではバイオマスからエタノールが生成されることから、その重要性はさらに高まっています。ラボでは、GC を使ってエタノール燃料の品質を評価していますが、これらの燃料に対する需要の高まりに対応するために生産性を最大化する必要が出てきています。現在の品質管理は ASTM の 2 種類の GC メソッドを使って良好に実施されていますが、長時間をかけて個別に 2 回の GC 分析をする必要があります。今後は、キャピラリ・フロー・テクノロジーの Deans スイッチを搭載した 1 台の Agilent 7890A GC システムを使ってうことで、両方の分析を短時間で実施できるようになります。
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エタノールをエンジン燃料として使う前に、炭化水素を使って変性させる必要があります。変性した後の生成物は燃料エタノールと呼ばれます。その後、燃料エタノールとガソリンを混合して商用燃料が生成されます。ASTM は製品の品質を保証するために、ガスクロマトグラフィを使って、エタノール燃料中のエタノールとメタノールを測定するためのメソッド D5501 を公開しました。[1] メソッド D5501 は、燃料中の炭化水素からエタノールとメタノールを分離するために、長い (150m) 分析用カラムを必要とします。このカラムサイズのために、複雑なサンプルでは分析時間が 50 分間を超えることがあります。
規制機関では、エタノールとメタノールの含有量を測定することに加えて、ASTM メソッド D5580 を使ってベンゼンとトルエンを分析することを求めています。このメソッドでは、これらの芳香族化合物を定量分析するために複雑なバルブ構成を使います。したがって、両方のメソッドを使ってエタノール燃料を完全に分析するには、2 台のガスクロマトグラフを必要になります。
1 台の GC で高速なメソッドを実現
分析時間を短縮する必要性から、アジレントでは 2003 年に 2 次元 (2-D) GC とハートカットを併用した 10 分間の燃料エタノールのメソッドを開発しました。[2] Agilent 7890A GC システムでは、高度な 2 次元 GC メソッドを用いた分析の生産性をより一層高めることが可能です。まず Deans スイッチを使って、エタノール、メタノール、ベンゼン、トルエンの分析を 1 台の装置にまとめ、費用とラボのスペースを削減することができます。次に、バックフラッシュ技術を適用して GC で不要なマトリクスを除去する時間を短縮します。両方のアプローチをより低温の恒温オーブンを使って実装測定することで、分析間のサイクルタイムを排除し、カラム寿命を延ばしてメンテナンスの手間を減らすことができます。
この新しい技術のデモを実施確認するために、市販元から変性燃料エタノール、E85 (エタノール 85% とガソリン 15%)、E25 という 3 種類のバイオマスエタノール燃料サンプルを入手しました。Agilent 7890 GC に Deans スイッチを搭載して、表 1 に示すとおりに機器条件を設定しました。
図 1 はバイオマスから生成した変性燃料エタノールサンプルのアルコール分析の結果を示しています。最初に、非極性の Agilent J&W HP-1 カラムを使って予備分離を行いました。Deans スイッチにより、1.2 分から 1.6 分の間に分解分離されていないアルコールを、極性を持つ Agilent J&W HP-INNOWax カラムにハートカットしました。このカラムは 3 分以内に、メタノールとエタノールを炭化水素から完全に分離しました。別の分析に向けてシステムを素早く調整できるように、残留するサンプルマトリクスはバックフラッシュによって GC カラムから除去されました。この分析の温度は恒温オーブンで調整されているため、次の分析に向けて温度を調整する待ち時間がなく、さらに生産性が向上します。
このメソッドをベンゼンとトルエンにまで拡張することは極めて簡単です。Agilent Deans スイッチは 1 回の分析で複数のハートカットを実行できます。ハートカットの間に、アルコール、ベンゼン、トルエンは最初のカラムから 2 番目のカラムに個別に移動します。2 番目のカラムはそれぞれの化合物を、干渉する炭化水素から 6 分以内に分離します。その後でバックフラッシュを使って、不要なマトリクスをシステムから除去することができます。
図 2 は変性燃料エタノール中のアルコールと芳香族化合物の分析を示しています。E85 および E25 の燃料サンプルでは、同一の分離が見られます。システムを較正した後、3 種類すべてのサンプル中にあるメタノール、エタノール、ベンゼン、トルエンの含有量を測定しました。この結果は 3 回の測定の精度とともに表 2 に示しています。
変性燃料エタノール | ||||
メタノール | エタノール | ベンゼン | トルエン | |
平均重量% | 0.021 | 97.881 | 0.006 | 0.016 |
RSD | 2.794% | 0.003% | 3.892% | 3.677% |
デュアル水素炎イオン化検出器 | ||||
メタノール | エタノール | ベンゼン | トルエン | |
平均重量% | >0.010 | 81.802 | 0.049 | 0.246 |
RSD | 0.598% | 3.876% | 4.016% | |
デュアル水素炎イオン化検出器 | ||||
メタノール | エタノール | ベンゼン | トルエン | |
平均重量% | >0.010 | 23.692 | 0.330 | 2.740 |
RSD | 1.807% | 2.020% | 3.469% | |
平均重量% = 平均重量パーセント 表 2. 3 つの異なる種類の商業用エタノール燃料の分析をサンプル毎に 3 回繰り返して得られた結果では、優れた精度が見られます。 |
サンプルスループットの大幅な向上
エタノール燃料分析に Agilent 7890A GC と Deans スイッチを適用することで、時間とリソースを大幅に削減することができます。2 次元 GC を使うと、エタノールおよびメタノールの分析とベンゼンおよびトルエンの分析を統合することができます。サイクルタイムと機器メンテナンスの手間を削減するためにバックフラッシュを使うと、さらに生産性を向上させることができます。Agilent キャピラリ・フロー・テクノロジーの Deans スイッチの内部構造の詳細については、無償の文献 資料(5989-9384EN) をダウンロードしてください。