Access Agilent 2010年2月号

Q-TOF LC/MS の絶え間ない技術革新による医薬品アプリケーションの性能の向上

Ken Imatani
アジレント TOF/Q-TOF 製品マネージャ

1 ppm 以下の質量精度では、Q-TOF (四重極飛行時間型) MS システムが、医薬品ラボなどで実行されている毎日のハイスループット分析にとって重要なツールとなります。ラボの生産性向上というニーズに、今日の医薬品サンプルの複雑性が加わることで、さらに高いレベルの Q-TOF MS 性能が求められるようになっています。この記事では、微量代謝物の検出を例として使用し、医薬品ラボを始めとする多くのラボにメリットをもたらす Q-TOF MS の最近の機能向上について重点的に説明します。これらの機能向上には、ダイナミックレンジ、インフォマティクスツール、質量精度、質量分解能、データ取り込み速度の向上などが含まれます。

親薬剤のピークに隠れた微量代謝物を検出

最も課題の多い医薬品アプリケーションの 1 つとして、親薬剤と共溶出する微量代謝物の検出が挙げられます。この分析を正しく行うには、Q-TOF MS のスペクトル内ダイナミックレンジが高くなければなりません。スペクトル内ダイナミックレンジは、スペクトル内部の検出可能な最大強度質量ピークと最小強度質量ピークの信号アバンダンスの比として定義されています。十分なスペクトル内ダイナミックレンジがないと、微量の代謝物が親薬剤と重なる場合に、MS は微量代謝物を検出することができません。

図 1. 親薬剤と共溶出するこの微量代謝物の分析は、5 桁以上のスペクトル内ダイナミックレンジを示しています(画像を拡大するにはここをクリックします)。
図 1. 親薬剤と共溶出するこの微量代謝物の分析は、5 桁以上のスペクトル内ダイナミックレンジを示しています(画像を拡大するにはここをクリックします)。

Agilent 6540 UHD (Ultra High Definition) 精密質量 Q-TOF LC/MS システムは、このような分析で非常に優れた結果を提供します。図 1 に、ベラパミルを S9 肝ミクロソームとインキュベーションし、分析した結果得られた単一スペクトルを示します。このスペクトルはわずか 330 m 秒で得られたものです。親薬剤であるベラパミルの質量ピーク [M+H]+ のアバンダンスが 268 万カウントであるのに対して、微量のジヒドロキシ代謝物のピークは、同じスペクトル内でわずか 25 カウントです。これは、ダイナミックレンジ比が、これまでに達成できなかった 100,000(5桁) のレベルを超えていることを示します。

幅広い濃度範囲を同時に検出

6540 UHD Q-TOF に含まれる A/D コンバータ (ADC) の信号処理エレクトロニクスの向上により、これまでにない、このようなスペクトル内ダイナミックレンジが実現されました。ADC によって検出器信号の連続したデジタル表現が作成されます。特定質量の複数のイオンがきわめて短時間に検出器に達すると、高速の ADC が、この立ち上がりおよび立ち下り信号を質量ピークの高精度プロファイルに変換します。わずか 1 ~ 2 桁のダイナミックレンジしか持たない以前の時間/デジタルコンバータ (TDC) とは対照的です。

Agilent 6540 UHD Q-TOF の 4 GHz ADC が、32 ギガビット/秒という注目に値するサンプリングスピードを提供する一方で、最新のデュアルゲイン増幅器が、低ゲインチャネルと高ゲインチャネルの両方で信号を同時に処理できるようになりました。これら双方の技術の連携により、ダイナミックレンジが大幅に拡張されました。

分子式の計算により可能性のない候補化合物を除外

微量代謝物を検出したら、正確な質量情報を使用して分子式を推定することが、代謝物同定のための重要なステップになります。ただし、質量が大きくなるにつれて可能な元素組成の数が急増するため、この作業は困難です。

Agilent 6540 UHD Q-TOF の 500 ppb を超える質量精度により、見込まれる分子式の数は劇的に減少しますが、間違った分子式を除外するための他の制約も必要です。

精密質量データを使用するだけではなく、Agilent MassHunter ワークステーション分子式生成 (MFG) ソフトウェアは、Agilent 6540 UHD Q-TOF によって測定される正確な同位体質量、アバンダンス、同位体間隔を最大限に活用します。このソフトウェアは、考えられる分子式の数を大幅に削減し、解析速度と分析の価値を向上させます。

図 2. Agilent MFG ソフトウェアは精密質量と同位体情報をいずれも活用し、親薬剤と微量代謝物の両方について正しい分子式を生成します(画像を拡大するにはここをクリックします)。
図 2. Agilent MFG ソフトウェアは精密質量と同位体情報をいずれも活用し、親薬剤と微量代謝物の両方について正しい分子式を生成します(画像を拡大するにはここをクリックします)。

図 2 に、MFG を使用した図 1 の分析の結果を示します。このソフトウェアは、わずか 0.25 ppm の質量誤差と 99.43 (最大で 100) の高いマッチ率で親薬剤の正しい分子式を提供します。代謝物の信号はベースライン近くに埋もれていますが、このソフトウェアは低い質量誤差 (1.03 ppm) で正しい分子式を導きます。代謝物の同定に役立つ A+2 同位体は、そのアバンダンスがわずか 25 カウントの場合でも、MFG ソフトウェアにより認識されます。

迅速な分析と優れた結果

より複雑な医薬品サンプルの迅速な分析を求める動きにより、さらに高いレベルの Q-TOF 性能が必要になっています。この記事の例は、幅広いダイナミックレンジ、優れた質量精度、複雑な混合物に含まれる微量代謝物の検出と同定を高速化する高度なソフトウェアツールによって、Agilent 6540 UHD Q-TOF の設計がこの課題に対応できることを示しています。

医薬品技術の革新に関する最近の記事では、Agilent UHD Q-TOF の設計の利点について詳細に説明しています。例えば、優れた MS 性能を維持しながら、超高速液体クロマトグラフィ (UHPLC) に必要な高いデータレートでスペクトルを取得できるようになりました。また、質量分解能と質量精度の向上により、複雑なマトリクスに含まれる大量の対象化合物の正確な分離と同定が、これまでになく容易になりました。詳細については、2010 年 3 月まで提供される記事全文をお読みになるか (出版物の 30 ページを参照)、またはアジレントの製品ページを参照してください。