Access Agilent 2016年8月号

新製品 Agilent 8900 ICP-QQQ による
シリコンベースのナノ粒子の高感度分析

山中理子、アジレントアプリケーションエンジニア
板垣隆之、アジレントソフトウェア R&D エンジニア
Steve Wilbur、アジレントソフトウェア製品マネージャ、ICP-MS システム

二酸化ケイ素 (SiO2) ナノ粒子 (NP) は、塗料、コーティング剤、接着剤から、食品添加物、化粧品、研磨マイクロ電子デバイスまで、幅広い用途に使用されています。用途の多様化と拡大に伴い、NP による環境、食品安全性、および人体に対する影響が懸念されています。こういった懸念を払拭するためにも、さまざまな種類のサンプルに低濃度で存在する NP のモニタリングが必要なのは明らかです。

トリプル四重極 ICP-MS により広がる可能性

ICP-MS では、単一粒子 ICP-MS (spICP-MS) と呼ばれる手法を用いることで、個々の NP について、存在する粒子の個数、濃度、およびサイズに加え、溶解している元素の濃度を同時に測定することができます。ただし、この種の測定には、超高速時間分析 (TRA) 機能が必要です。それを実現するのが、積分時間が非常に短い (ドウェルタイム 0.1 ms) 新たな検出器を搭載したAgilent 8900 ICP-QQQ です。

従来の四重極 ICP-MS では、低濃度の Si の測定は容易ではありません。これは、CO および N2 による強いバックグラウンド多原子イオン干渉が m/z 28 である Si の主同位体 (28Si のアバンダンスが 92.23 %) に干渉するためです。ICP-MS のコリジョンリアクションセルでの化学反応を利用してこの干渉を解決することもできますが、このプロセスをコントロールし、一貫した化学反応を得るためには、Agilent 8900 ICP-QQQ などのタンデム質量分析機器が必要です。また、広く利用されているポリマー、シーリング材、洗浄剤、およびその他のラボ試薬の多くには Si が存在するため、一般に、Si のバックグラウンド信号は高くなります。今回の調査で使用した Agilent 8900 のアドバンス仕様には、不活性な特殊材料を採用した新たなアルゴンガスフローシステムが搭載されているため、ICP-MS のハードウェアに起因する Si (および S) 汚染による信号が最小限に抑えられます。これにより、Si について 50 ppt 未満というきわめて低い検出下限の仕様を実現できます。

二重の質量選択機能がきわめて分離困難なスペクトルの干渉を解消

Agilent 8900 ICP-QQQ には、二重の質量選択機能を提供する 2 つの四重極マスフィルタ (Q1 および Q2) がオクタポールリアクションセルを挟んで搭載されています。これは一般に MS/MS と呼ばれます。今回の調査では、Q1 および Q2 をどちらも m/z 28 に設定し、MS/MS モードで28Si の信号をオンマス測定しました。また、12C16O や 14N2 などのオンマス多原子干渉を排除するために、水素セルガスを使用しました。これにより、Si に干渉する反応プロダクトイオンが新たに生成されるのを MS/MS で防ぎながら、低濃度で存在する Si を正確に測定することができました。

図 1. 単一ナノ粒子アプリケーションモジュールソフトウェアの結果データ画面

図 1. 単一ナノ粒子アプリケーションモジュールソフトウェアの結果データ画面

図 2. A: 測定信号、B: 頻度分布、C: 50 nm の SiO2 NP (40 ng/L) の粒子サイズ分布

図 2. A: 測定信号、B: 頻度分布、C: 50 nm の SiO2 NP (40 ng/L) の粒子サイズ分布

図 3. 1 % エタノール中の 100 nm および 200 nm の SiO2 粒子のサイズ分布結果

図 3. 1 % エタノール中の 100 nm および 200 nm の SiO2 粒子のサイズ分布結果

NP の特性解析をサポートする自動測定および結果の自動計算

メソッド設定およびデータ解析には、Agilent ICP-MS MassHunter ソフトウェアのオプションである単一ナノ粒子アプリケーションモジュールを使用しました。このソフトウェアでは、バッチ全体のサンプル結果が「Batch at a Glance」画面にまとめられます。ここでサンプルを選択すると、そのサンプルの詳細な結果がグラフで表示されるため、結果を視覚的に確認したり、必要に応じて粒子の閾値やメソッドの設定を最適化できます (図 1)。

シリカナノ粒子の正確な分析

分析は、Agilent 8900 ICP-QQQ を高速 TRA モードで使用し、ドウェルタイムを 1 ポイントあたり 0.1 ms (100 µs)、測定間のセトリング時間を 0 に設定して実施しました。高速 TRA では、単一粒子による信号ピークの間に複数の測定を行えるため、各 NP のイオンプルームの形状および期間を特定できます。粒径 50 nm の SiO2微粒子に対し、ベースライン信号と容易に区別できる明確なピークが得られました。また、脱イオン (DI) 水では、低いバックグラウンド信号が観察されました (図 2A)。

図 2C から、粒子サイズ 50 nm の SiO2 を正確に測定できたことがわかります。これは、低い Si のバックグラウンド信号、H2 セルガスを用いた MS/MS モードによる多原子干渉の効果的な除去、および Agilent 8900 ICP-QQQ の優れた感度が相乗的に働いた結果です。

実際のサンプル分析では炭素の干渉を除去することが必要

生体サンプルや組織、食品マトリックス、医薬品成分、有機溶媒などのサンプルには炭素マトリックスが含まれ、これが 28Si に干渉する 12C16 多原子イオン干渉の原因になります。この干渉は、Agilent 8900 ICP-QQQ の MS/MS モードで水素セルガスを用いることで効果的に排除できます。100 nm および 200 nm の SiO2粒子を含む 1 % エタノールのサンプル混合液を測定することにより得られた粒子サイズ分布を図 3 に示します。炭素が高濃度であるにも関わらず、各粒子サイズ群のサイズ分布は透過電子顕微鏡 (TEM) での測定結果と良好に一致し、各粒子サイズが優れた分解能で分離されています。この結果から、spICP-QQQ 法により、マトリックス干渉を排除し、実際のサンプルマトリックスに含まれる SiO2 ナノ粒子の粒子サイズを正確に測定できるものと考えられます。

Agilent 8900 ICP-QQQ による幅広い NP の特性解析

Agilent 8900 ICP-QQQ と専用の MassHunter spICP-MS ソフトウェアを用いることで、高速分析が可能になり、粒子サイズおよび濃度の優れた検出下限が実現され、100 nm 未満の SiO2 粒子についても正確な分析結果が得られます。

MS/MS による干渉の解決方法については、こちらをご覧ください。また、このアプリケーションの詳細については、アジレントのアプリケーションノート 5991-6596JAJP をご覧ください。