Access Agilent 2016年8月号

LC/MS/MS による
血漿中の毒性化合物分析のための脂質除去

Joan Stevens、アジレントシニアアプリケーションサイエンティスト

血漿中の毒性化合物を測定するための分析メソッドでは、少量の血漿にアセトニトリル (ACN) を添加してタンパク質を沈殿させ、Enhanced Matrix Removal—Lipid (EMR–Lipid) 吸着剤が入った分散チューブに上澄みを移して脂質を除去するサンプル前処理が最適です。これにより、内因性の血漿脂質マトリックス化合物を 97 % 以上除去することが可能です。今回の調査事例では、Agilent EMR–Lipid により、他社製のリン脂質除去用吸着剤よりも格段に多くの脂質を除去できました。また、添加血漿サンプルから分析対象物を平均真度 95 % 以上、平均相対標準偏差 (RSD) 6 % 未満で分析できました。

血漿サンプルに対してタンパク質沈殿 (PPT) と EMR–Lipid 分散固相抽出 (SPE) を組み合わせて用いることで、さまざまな毒性化合物を定量下限 (LOQ) 1 ng/mL 以下の感度で分離できました。このサンプル前処理法では、カラムに残留してクロマトグラフィー性能の低下や汚染の原因となることで知られる脂質をすばやく簡単に除去することが可能です。

毒性学的モニタリング対象化合物の PPT とクリーンアップ

このアプリケーションで紹介する実験では、サンプルとして、抗凝固剤 NaEDTA または NaCitrate を含む血漿を使用しました。酸性 ACN を用いて PPT を行った後、Agilent EMR–Lipid と強化された脱水処理 でクリーンアップしました。実験では、疎水性および pKa が大きく異なる 25 種類の毒性学的モニタリング対象化合物をもとに評価を行いました (表 1)。

化合物 CAS 番号 Log P pKa
アルプラゾラム 028981-97-7 3.02 1.79, 5.08
アンフェタミン 000051-63-8 1.80 10.01
コカイン 000053-21-4 2.28 8.85
コデイン 000076-57-3 1.34 9.19
ジアゼパム 000439-14-5 3.08 2.92
ヘロイン 005893-91-4 1.55 9.10
ヒドロコドン 000143-71-5 1.96 8.61
ロラゼパム 000846-49-1 3.53 12.46
MDA 3,4-メチレンジオキシアンフェタミン塩酸塩 013673-99-9 1.43 10.01
MDEA 3,4-メチレンジオキシル-N-エチル-アンフェタミン塩酸塩 116261-63-3 2.22 10.22
MDMA 3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン塩酸塩 092279-84-0 1.86 10.14
塩酸メペリジン 000050-13-5 2.46 8.16
メサドン 001095-90-5 5.01 9.12
塩酸メタンフェタミン 000051-57-0 2.24 10.21
ニトラゼパム 000146-22-5 2.89 2.60, 3.28
オキサゼパム 000604-75-1 2.92 10.61, 12.47
オキシコドン 000124-90-3 1.03 8.21
PCP 塩酸フェンシクリジン 000956-90-1 4.49 10.64
フェンテルミン 000122-09-8 2.08 10.25
プロアジフェン 000062-68-0 5.61 8.96
ストリキニーネ 000057-24-9 0.93 9.27
テマゼパム 000846-50-4 2.79 10.68
THC 001972-08-3 5.94 9.34
トラゾドン 025332-39-2 3.13 7.09
ベラパミル 000152-11-4 5.04 9.68

表 1.疎水性および pKa が大きく異なる 25 種類の毒性学的モニタリング対象化合物の EMR-Lipid 分散 SPE クリーンアップ

よりクリーンなマトリックスによる最適なクロマトグラフィーの確保

PPT は、生体サンプルの前処理法として広く使用されています。この手法を用いることで、抽出物からタンパク質を除去できますが、脂質がターゲット化合物と共溶出し、クロマトグラフィー性能の低下と MS イオン抑制を引き起こす可能性があります。Agilent Bond Elut EMR–Lipid では、サイズ排除および疎水性相互作用により選択的に脂質を除去できます。分析対象物の回収率に影響をおよぼすこともありません。今回の調査では、LC/MS/MS を用い、MS1 を 100~1000 に設定して m/z 184 のプロダクトイオンを検出することにより、リン脂質をモニタリングしました。その際、カラム、また場合によってイオン源に残留しているマトリックス共溶出物を溶出させるために、クロマトグラフィー分析時間を 30 分まで延長しました。これらの共溶出物は、分析対象物の分析に用いられる短い高速グラジエントでは必ずしも明確には現れませんが、以降の注入時に溶出し、分析結果のばらつき原因になる可能性があります。

図 1. LC/MS/MS による、PPT とさまざまな脂質除去用吸着剤で前処理した血漿サンプルのプロダクトイオン m/z 184 の測定結果

図 1. LC/MS/MS による、PPT とさまざまな脂質除去用吸着剤で前処理した血漿サンプルのプロダクトイオン m/z 184 の測定結果

図 2. ヒト血漿から抽出した 25 種類の毒性化合物の真度

図 2. ヒト血漿から抽出した 25 種類の毒性化合物の真度

図 3.ヒト血漿に含まれる 25 種類の毒性化合物の相対標準偏差 (RSD)

図 3.ヒト血漿に含まれる 25 種類の毒性化合物の相対標準偏差 (RSD)

Agilent EMR による効率的な脂質除去

Agilent EMR–Lipid の脂質除去効率を、市販されている他社製のリン脂質除去用吸着剤と比較するために、500 µL の血漿に 1 mL の ACN (0.2 % ギ酸 (FA)) を混合して PPT を行った後、真空吸引によりリン脂質カートリッジに通しました。図 1 から、一般的なリン脂質除去用吸着剤 (ウォーターズ社製 Oasis Prime、フェノメクス社製 Phree、およびスペルコ社製 HybridSPE) と比較して、Agilent EMR–Lipid の脂質クリーンアップ効率が格段に優れていることがわかります。図 3 は、PPT および EMR–Lipid 分散 SPE クリーンアップで前処理した 10 ng/mL の添加血漿サンプルのダイナミック MRM により得られた代表的なクロマトグラフィー結果を重ねたものです。

Agilent EMR—Lipid による真度と再現性の向上

真度と再現性を評価するために、血漿サンプルに標準物質を 5、25、および 50 ng/mL の濃度で添加し、この操作を 5 回繰り返しました (n = 5)。次に、これらの QC 血漿サンプルに対し、PPT と EMR–Lipid 分散クリーンアップを行いました。真度は、マトリックスマッチング法で作成した検量線をもとに評価しました。結果の回収率と相対標準偏差を図 2 および図 3 に示します。

この結果から、5 ng/mL の添加サンプルについて、全化合物平均で 95 % 以上の優れた回収率と 6 % 未満の RSD が得られたことがわかりました。ヘロインのみ、平均回収率が 65 % と比較的低くなりましたが、RSD は 8 % を下回りました。

血漿分析に最適なアジレントの小型 EMR—Lipid

LC/MS/MS を用いた血漿中の幅広い毒性化合物分析のために、PPT と Agilent EMR–Lipid による分散クリーンアップを用いたシンプルで経済的なサンプルクリーンアップ法が開発されました。この新たなクリーンアップ法は、標準的な PPT と他社製の脂質除去用製品を組み合わせた場合より全体的な脂質除去効率が大幅に高く、よりクリーンな抽出物が得られ、優れた回収率と 1 桁台の % RSD がもたらされます。また、追加の機器やガラス器具が必要なく、サンプル前処理が容易になるという利点もあります。この方法を用いた血漿からの毒性化合物の抽出に必要な処理は添加、撹拌、および遠心分離のみで、サンプル前処理法に関する特別な専門知識が必要ないため、ラボに容易に導入できます。

効果的なサンプル前処理のためのアジレントの幅広いソリューションと製品

アジレントのサンプル前処理製品を用いることで、分析目標に大きく近づくことができます。この記事で紹介したアプリケーションでは、血漿中の毒性化合物を分析するための前処理に Agilent Bond Elut Enhanced Matrix Removal—Lipid を使用しました。今回の調査により、EMR—Lipid を用いることで生体マトリックスから効果的に化合物を抽出し、LOQ が 1 ng/mL 未満の優れた感度が実現されることが実証されました。革新的な EMR—Lipid によるサンプル前処理法の詳細については、アジレントの担当者にお問い合わせください。

本資料掲載の製品は、すべて研究用です。診断目的では使用できません。

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