Access Agilent 2016年7月号

炭素中心代謝解析の新たな LC/TQ データベースとメソッド

Christine Miller、アジレントオミクス市場マネージャ

探索メタボロミクスは、これまで特徴付けられていなかった反応を同定するための有効なツールですが、最も顕著な「代謝表現型」の多くは、既知のパスウェイおよび中間体が変化したものです。多くの研究課題の解明は、既知の代謝物の定量をもとに行われます。炭素中心代謝物の相対定量もその 1 つです。トロント大学の協力により、このプロセスを促進する液体クロマトグラフィー/トリプル四重極 (LC/TQ) 質量分析データベースおよびメソッドが最近開発されました。

精密質量飛行時間型 LC/MS- TOF および Q-TOF でも探索分析およびフォローアップ分析は可能ですが、ターゲットメタボロミクス分析には、優れた感度と堅牢性を備え、メソッドがシンプルな LC/TQ 質量分析計が最適です。

1 回の分析で多数の代謝物を優れた再現性で分析

トロント大学の RosebrockCaudyの ラボでは、質量分析にもとづくメタボロミクス解析のために、新たな実験メソッドと分析メソッドの開発が積極的に行われており、ハイスループット分析と高い質の生物学的解析を可能としています。最近、これらのラボにおいて、Agilent 6460 トリプル四重極 LC/MS システムでダイナミックマルチプルリアクションモニタリング (dMRM) を用いた炭素中心代謝物の相対的定量メソッドが開発されました。dMRM では、MRM トランジションをリテンションタイムでスケジュールすることにより、データ品質を損なうことなく、1 回の分析でより多くの代謝物を分析できます。

Amy Caudy は「ダイナミック MRM 分析では、1 回の分析で多数の分析対象物のターゲット分析を行うことができるため、代謝表現型を解明するための強力な突破口となっています」と述べています。

図 1. クロマトグラフィーのリテンションタイムが数千回の注入に渡って安定しています。図は、一連の既知化合物のリテンションタイムを示しています。

図 1. クロマトグラフィーのリテンションタイムが数千回の注入に渡って安定しています。図は、一連の既知化合物のリテンションタイムを示しています。

安定したリテンションタイムにより大規模な研究が可能に

Rosebrock および Caudy ラボでは、アミノ酸、クエン酸回路中間代謝物およびその他のカルボン酸、核酸塩基、ヌクレオシド、リン糖酸、脂肪酸を含む酸性の炭素中心代謝物を分離するための、再現性と堅牢性に優れたイオンペア逆相クロマトグラフィーメソッドを開発しました。このイオンペアメソッドは、機器間の再現性が高く、保持時間安定性に優れています。数千回の注入による大量のサンプルセットの分析でも、観察されたリテンションタイム (RT) のシフトはほんのわずかでした (図 1)。

図 1A は、3 日間に渡って分析した 62 種類の生体サンプル (酵母細胞の抽出物) について、リテンションタイムの偏差と平均リテンションタイムの関係をプロットしたものです。また、何か月にも渡って生体サンプルを 4000 回注入した前後に分析した同一サンプル中の分析対象物のリテンションタイムを図 1B に示します。

Adam Rosebrock は「数千回注入しても、生成されるデータのリテンションタイムのシフトは最小限に抑えられます。これまで実施が困難であった、多数のサンプルを扱う生物学的課題に取り組むことができるようになりました」と述べています。

Rosebrock および Caudy ラボでの結果の詳細については、アプリケーションノート 5991-6449EN およびアジレントのウェビナーをご覧ください。

dMRM データベースによりメソッド開発時間を大幅に短縮

図 2. 100 種類以上の標準代謝物 (オンカラム: 5 ng) 分析した MRM クロマトグラムの重ね表示。各代謝物種の LC 溶出範囲が示されています。

図 2. 100 種類以上の標準代謝物 (オンカラム: 5 ng) 分析した MRM クロマトグラムの重ね表示。各代謝物種の LC 溶出範囲が示されています。

ターゲットとなる代謝物リストの規模によっては、メソッド開発は非常に時間のかかる作業となり、MRM トランジションとリテンションタイムを最適化するために幅広い標準物質を入手することが必要になります。Rosebrock ラボで開発されたダイナミック MRM データベースには、炭素中心代謝により生成される代謝物が 215 種類以上登録されており、ケミカルアブストラクツサービス (CAS) ID、MRM トランジション、リテンションタイム、および化合物固有の MS パラメータも参照できます。イオンペア逆相クロマトグラフィーメソッドと組み合わせてデータベースを利用することで、分析対象物を幅広いダイナミックレンジに渡って高感度検出することが可能です (図 2)。

このデータベースとメソッドの詳細については、テクニカルノート 5991-6482EN をご覧ください。

図 3. グリホサートで処理した大腸菌について、EPSP シンターゼの上流および下流での代謝物レベルの増加および減少パターンから、酵素阻害部位が明らかになりました。

図 3. グリホサートで処理した大腸菌について、EPSP シンターゼの上流および下流での代謝物レベルの増加および減少パターンから、酵素阻害部位が明らかになりました。

シームレスな差分解析とパスウェイ解析

この TQ ベースのメソッドはターゲット分析を想定したものであるため、生成されるデータには、化合物名とデータベース ID が自動的に関連付けられます。これにより、下流の差分解析とパスウェイ解析をシームレスに行うことができます。この分析メソッドを用いて、グリホサートで処理した大腸菌の中心炭素パスウェイに関連する代謝物の相対的変化を評価しました (図 3)。その結果、シキミ酸および 3-ホスホシキミ酸の濃度に大幅な増加が見られたのに対し、コリスミ酸および 3 種類のすべての芳香族アミノ酸の濃度は大幅に減少していました。ライブラリでは代謝物が広くカバーされているため、幅広い生化学的異常調節についてのパスウェイレベルでの解析と特性解析が可能です。

この研究にもとづくメタボロミクス dMRM データベースおよびメソッドをアジレントからご利用いただけるようになりました。このソリューションを利用することで、どんな研究ラボでも、炭素中心代謝のターゲット分析を短期間で導入し、メソッド開発時間を最小限に抑えて、最大限の研究時間を確保できます。

アジレントのメタボロミクス dMRM データベースおよびメソッドの詳細については、こちらをご覧ください。また、このアプリケーションをラボで実施する方法については、アジレントの担当者にお問い合わせください

本資料掲載の製品は、すべて研究用です。診断目的では使用できません。