Access Agilent 2016年1月号

Agilent 8800 ICP-QQQ を用いた
タンパク質および抗体の高速かつ正確な絶対定量

Philippe De Raeve、科学部門ディレクタ、Quality Assistance (医薬品開発業務受託機関)、ベルギー
Amir Liba、米国アジレント SPSD アプリケーションケミストチームマネージャ

ライフサイエンス研究においては多くの化合物が未知であるため、化合物固有の標準液を使用しなくてもタンパク質およびペプチドを正確に定量できる分析メソッドには、非常に大きなメリットがあります。

現在は、誘導結合プラズマ質量分析 (ICP-MS) を利用して、タンパク質中に含まれるヘテロ元素のシグナル測定によってタンパク質濃度を測定する、タンパク質定量の新しい技法があります。トリプル四重極 ICP-MS (ICP-QQQ) の MS/MS モードは、従来の ICP-MS では、一部困難だった元素(リン、硫黄など)測定におけるスペクトルの重なり(多原子イオン干渉、同重体干渉)を除去することを実現しました。これにより、硫黄の同位体比分析および同位体希釈質量分析 (IDMS) が可能になりました。IDMS は、サンプルと既知の同位体組成の認証済み標準元素のスパイクさせた混合物中で測定した同位体比に基づいて、ターゲット化合物を定量します。各サンプルでの濃度測定は、外部検量線を用いることなしに同位体質量数のカウント値とスパイクサンプルの添加量およびスパイクサンプルの同位比組成比を用いることによって測定サンプル毎に独立して分析されます。そのため、IDMS を使用すると、化合物固有の検量線用標準試料を使用しなくても化合物を定量でき、未知のタンパク質およびペプチドの正確な定量が可能になります。

アジレントのソリューションによる硫黄の同位体比の分析

ほとんどのタンパク質には、メチオニンおよびシステインの残留物由来の硫黄が含まれています。従来の四重極 ICP-MS では硫黄の測定は困難でした。理由は元素の高いイオン化ポテンシャル (10.4 eV) のために感度が低くなり、また、複数の多原子イオンの発生 (O2 など)により S のすべての同位体でスペクトルの重なりが生じる (特に有機マトリックスの場合) ためです。高分解能 ICP-MS (HR-ICP-MS) を S の分析に使用できますが、機器のコストが大幅に高いことに加えて、S の同位体をスペクトル干渉から分離するために必要な質量分解能では、イオン透過率 (感度) が 10 分の 1 となってしまいます。

Agilent 8800 ICP-QQQ の MS/MS 機能を利用して、32S および 34S 同位体の測定により硫黄を定量する高精度の IDMS メソッドを開発しました。マスシフトモードの使用により、分析対象イオンを O2 コリジョンリアクションセルガスと反応させ、同位体固有の SO+ プロダクトイオンを M + 16 amu (m/z 48 および 50) で測定します。

高精度のダブルスパイク IDMS 技法により感度の違いを解決

濃縮された同位体スパイク溶液 (H234SO4) を、固形の 34S 粉末の酸化によって前処理したため、添加溶液中の 34S の実際の濃度は、ダブルスパイクメソッドを使用して逆 IDMS によって測定する必要がありました。天然の硫黄同位体が豊富な米国国立標準技術研究所 (NIST) の認定済み SO4 溶液を参照標準として使用して、添加溶液中の 34S を定量しました。ダブルスパイクIDMS法により、32S と 34S の間の感度の違いを補正することもできます。すなわち、マスバイアス補正が自動的に適用されます。

ICP-QQQ により完全なメソッド検証を実現

今回の分析では、メソッドを検査するためのモデル化合物としてウシ血清アルブミン (BSA) を選択しました。BSA の化学式は C2932H4614N780O898S39 であるため、BSA 中には 1.833 % の S が含まれます。NIST 認定の標準認証物質 (SRM) 927e BSA (7% 溶液) には、67.38 ± 1.38 g/L (± 2.0 %) の S が含まれています。BSA SRM を数回別個に計量したもの (表 1 に示すレベルごと) を分解して測定しました。ICP-QQQ を用いて各溶液を分析し、硫黄の濃度は IDMS を使用して測定しました。表 1 に示す結果から、回収率がほぼ 100 % で、RSD が 0.35% 未満であり、真度と精度が優れていることが分かります。

NIST 927e BSA
溶液の実際の重量 (mg)
BSA の整数質量 (mg、概数) 硫黄
(µg、概数)
硫黄
(µg/g、概数)
平均回収率 (%) RSD (%) n
26.05; 24.67; 23.37 1.6 30 0.6 101.29 0.34 3
30.93; 32.09; 31.34 2.1 40 0.8 101.30 0.21 3
40.33; 40.19; 39.72;
39.60; 40.01; 40.30
2.6 50 1.0 101.26 0.22 6
47.71; 48.30; 48.12 3.2 60 1.2 101.17 0.13 3
55.56; 55.72; 56.03 3.7 70 1.4 101.17 0.12 3

表 1. NIST 927e BSA SRM 溶液のさまざまなサンプル分解物の分析

分析メソッドを、次に示す項目についても評価しました。

  • 潜在的な製剤緩衝液原材料からのマトリックス効果。さまざまな個別の化合物および混合製剤緩衝液の存在について、結果は一貫していました。
  • 次の非タンパク質硫黄の存在の正確さ。
    • 硫酸塩。NIST BSA 927e 溶液に SO4 (5 % までの BSA 硫黄) を添加しました。この溶液の一部を、分子量 3 KDa の止水膜でろ過し、硫黄を含む低分子量の汚染物質を分離しました。スパイク溶液での補正された BSA 回収率は 99.6 % でした。これは硫酸塩に起因するものが存在しないことを示します。
    • メチオニン。メチオニンを NIST BSA 927e およびヒト免疫グロブリン (IgG) の溶液に加えました。溶液をろ過し、元の溶液とろ液中のメチオニンを測定しました。表 2 に示す結果から、ろ液中のメチオニンについてそれぞれ 99.1 % および 99.5 % という優れた回収率であったことが分かります。これは、潜在的な低分子質量の硫黄含有分子の汚染は、すべてろ過によって選択的に除去できることを明確に示しています。
NIST BSA 溶液 IgG 溶液
加えられたメチオニン (mM) 2.05 2.05
ろ液中のメチオニン (mM) 2.03 2.04
回収率 (%) 99.1 99.5

表 2. メチオニンの回収率

トラスツズマブ溶液の分析への応用

トラスツズマブは、ヒト上皮成長因子受容体 2 (HER2/neu 受容体) に干渉するモノクローナル抗体です。この応用では、IDMS-ICP-QQQ メソッドを使用して、トラスツズマブを含む溶液中の硫黄の濃度を測定しました。表 3 に示すように、期待値と良好に一致しました。

濃度期待値 濃度測定値 %RSD (n=3) 回収率 (%)
硫黄 21 mg/mL 20.53 mg/g 0.02 97.8

表 3. トラスツズマブ溶液の分析

Agilent 8800 ICP-QQQ による生体分子の正確な定量

MS/MS モードを使用する Agilent 8800 ICP-QQQ は、感度が高く、また複数の硫黄同位体について効果的に干渉を抑えることができるため、34S/32S の比率を使用して IDMS により硫黄を測定することができます。そのため、タンパク質、ペプチド、および抗体などの生体分子を、硫黄ヘテロ元素含有量を通じて正確に定量することが可能です。この調査の詳細については、アプリケーションノート 5991-6118EN をダウンロードしてください。この共同研究と Quality Assistance S.A. については、www.quality-assistance.com をご覧ください。

アジレントの幅広い ICP-MS システム、アクセサリ、および消耗品

アジレントは、 ICP-MS システムアクセサリ、および消耗品の豊富なラインアップを提供しています。Agilent 8800 ICP-QQQ は、強力な独自の各種動作モードにより、優れた性能と柔軟性を提供します。その内容をご確認ください。

Agilent ICP-MS ジャーナル

微量金属分析と、ICP-MS 分野の開発に関する最新情報については、アジレントの「ICP-MS ジャーナル」をぜひご覧ください。ICP-MS ジャーナルは、PDF 形式で年 4 回発行されます。ICP-MS ジャーナルのアーカイブで最新号と過去の発行分をすべて読むことができます。