Access Agilent 2015年8月号

アジレントの新しい不活性 MP-AES トーチによる、 フッ酸分解物サンプルの分析効率の向上

Alejandro Amorin
アジレントテクニカルマーケティングエンジニア

David McDonald
アジレントアプリケーションケミスト

土壌の元素分析を正確に実施することは極めて重要です。この分析は必須栄養素レベルの評価や、毒性金属と重金属の定量、風化指標の追跡による年代測定に使用されます。土壌や岩石のサンプルを分析するラボではしばしば、完全な溶出を徹底するためにサンプル前処理でフッ酸 (HF) を使います。遊離フッ酸はガラス成分と石英成分を腐食させるため、標準的なガラスサンプル導入システムはフッ酸分解物には向いていません。劣化を防止するためには、分析前に残留フッ酸を中和する必要があります。この追加ステップによって全体的な効率が下がり、汚染が生じる可能性があります。このため、フッ酸分解物を取り扱うラボでは、中和ステップを解消するための不活性サンプル導入コンポーネントが選ばれています。

不活性 MP-AES トーチによるサンプル前処理ステップの削減

アジレントはフッ酸分解物の直接分析を可能にするため、4200 MP-AES 向けの不活性トーチを開発しました。不活性 MP-AES トーチはアルミナインジェクタ付きで、Agilent OneNeb ネブライザなどのネブライザおよび不活性スプレーチャンバと組み合わせて使用します。これにより、MP-AES アプリケーションの範囲が広がり、土壌および地球化学サンプルの分析に通常必要なフッ酸分解物を含めることができます。また、フッ酸の中和ステップが除かれることで生産性と効率が上がります。

MP-AES を使用した土壌 SRM の測定

今回は、4200 MP-AES を使用して、土壌の標準物質 (SRM) に含まれる主成分元素および微量元素を測定しました。これには、サンホアキン土壌 (NIST SRM 2709a) と モンタナ土壌 (NIST SRM 2710a および 2711a) が含まれます。Milestone UltraWAVE マイクロ波分解システムを使用して、約 0.5 g の各 SRM を、2 mL の脱イオン水、2 mL の硝酸、6 mL の塩酸、2 mL のフッ酸で分解しました (表 1)。40 bar の窒素ガス圧を使用して、シングルリアクションチャンバを加圧しました。分解にかかったのはわずか 35 分で、最高温度は 230 °C に達しました。サンプルは脱イオン水を使用して最大 40 mL に調整しました。

手順

時間 (分)

出力 (W)

温度 T1(℃)

温度 T2(℃)

1

10:00

1500

室温

150

2

5:00

1500

150

150

3

10:00

1500

150

230

4

10:00

1500

230

230

表 1. 土壌 SRM の前処理に使用されたマイクロ波分解プログラム (T1 と T2 はベッセルの初期温度と最終温度)

20% の王水と 5% のフッ酸の希釈液を使用して、アジレントの単元素標準溶液からマトリックスを合わせた標準溶液を作成しました。スペクトル干渉のため、リン標準は別途作成しました。予想される分解物内の元素濃度を分類するために、標準濃度を選択しました。最も濃い標準には、60 mg/L の Pb、240 mg/L の Cu と Ti、480 mg/L の Mn、1200 mg/L の Fe が含まれていました。最も濃い P の標準は 50 mg/L でした。

Agilent MP Expert ソフトウェアに含まれる波長データベースを使うと、潜在的な干渉元素を確認することで適切な分析線を選択できます。干渉があり、十分な感度を提供するラインも干渉のないラインも他にない場合、アジレントの Fast Linear Interference Correction (FLIC) を使用すると、干渉をモデル化してスペクトル要因を補正することで、正確な結果を得られます。分析対象元素の波長に直接重なる干渉がある場合、IEC 補正を適用すると、この重複を除外できます。ここではスペクトル干渉を補正するために FLIC を使用しました (表 2)。マトリックスによる影響を補正するため、イットリウム (10 mg/L) を内部標準として使用し、オンラインで追加しました。

Fast Linear Interference Correction を使用した Pb 405.781 nm ラインに対するスペクトル干渉の解消。ブランク (濃青)、分析対象 Pb (赤)、Co (黄緑)、Fe (紫)、V (オレンジ)、Mn (緑)、Ti (水色)

図 1. Fast Linear Interference Correction を使用した Pb 405.781 nm ラインに対するスペクトル干渉の解消。ブランク (濃青)、分析対象 Pb (赤)、Co (黄緑)、Fe (紫)、V (オレンジ)、Mn (緑)、Ti (水色)
(図を拡大)

Fast Linear Interference Correction を使用した Pb 405.781 nm ラインに対するスペクトル干渉の解消。ブランク (濃青)、分析対象 Pb (赤)、Co (黄緑)、Fe (紫)、V (オレンジ)、Mn (緑)、Ti (水色)

図 1. Fast Linear Interference Correction を使用した Pb 405.781 nm ラインに対するスペクトル干渉の解消。
ブランク (濃青)、分析対象 Pb (赤)、Co (黄緑)、Fe (紫)、V (オレンジ)、Mn (緑)、Ti (水色)

元素

FLIC で補正したスペクトル干渉の要因

Cu

Fe、Mn、Ni、Ti

Fe

Co

Mn

Co、Fe、V

P

Cu、Fe、Mn、Ni、Zn

Pb

Co、Fe、Mn、Ti、V

Ti

Co

表 2. Fast Linear Interference Correction モデルのパラメータ

SRM に含まれる Pb は、20 mg/Kg から 5000 mg/Kg 以上まで多岐にわたりました。Pb 濃度の低いサンプルでも良好な感度を維持するため、最も感度の高い分析線 (405.781 nm) を分析対象として選択しました。複数の干渉元素が観察され、土壌 SRM 内にパーセント (%) レベルで存在するものもありました。観察された干渉元素は、Co、Fe、V、Ti、Mn です (図 1)FLIC を使って干渉を除去した結果、2 桁の濃度範囲にわたる Pb に対して優れた回収率が得られました。

表 3 に、不活性トーチと MP-AES を使用して土壌 SRM を分析した結果を示します。この分析は後から、通常の王水分解物を使用して繰り返されました。王水分解物に含まれる Ti の SRM 回収率は一般に 40% 未満 (記載なし) であり、適切な溶出にはフッ酸が欠かせないことを裏付けています。分解したモンタナ I 土壌を 8 時間にわたって繰り返し分析し、2.5 時間ごとキャリブレーション再検量することで、長期の安定性を測定しました。すべての元素に対する回収率が +/- 10% 未満で、測定精度が 5% 未満という優れた長期安定性を達成しました (表 4)。

NIST SRM

回収率 (%)

Cu 324.754
nm

Fe 248.327
nm

Mn 403.307
nm

P 213.618
nm

Pb 405.781
nm

Ti 308.804
nm

2709a
サンホアキン土壌

101

98

104

92

106

95

2710a
モンタナ I 土壌

100

98

105

97

98

95

2711a
モンタナ II 土壌

105

102

106

96

101

97

表 3. 3 種類の土壌 SRM から測定された元素の回収率

RSD (%)

Cu

Fe

Mn

P

Pb

Ti

3.2

2.8

3.2

4.2

2.2

2.0

表 4. 8 時間の継続測定による、モンタナ I 土壌 SRM (NIST 2710a) に含まれる元素の長期測定精度

 

Cu

Fe

Mn

P

Pb

Ti

MDL (mg/L)

0.0009

0.03

0.0005

0.119

0.010

0.018

表 5. メソッド検出下限

メソッド検出下限 (MDL) は、酸分解メソッドブランクの 10 回繰返し測定を 10 回に分けて分析することで測定しました (表 5)。この測定は複数の機器と複数のトーチを使って実施されたたため、ほとんどのラボで予想される代表的な MDL 性能を表しています。

フッ酸分解物の確実な測定

上記の結果は、アジレントの不活性 MP- AES トーチをその他の不活性サンプル導入コンポーネントと一緒に使うと、フッ酸分解物サンプルの直接分析に最適なツールとなることを実証するものです。フッ酸を含む土壌のマイクロ波分解は、測定対象元素に対して優れた回収率を示しました。不活性 MP-AES トーチにより、追加の中和ステップが解消されました。良好な長期安定性、広いダイナミックレンジ、優れた検出下限の達成により、Agilent 4200 MP-AES が土壌やその他の地球化学サンプルの測定に最適であることが裏付けられました。詳細については、アジレント文献 5991-5991ENをご覧ください。