生体マトリックスを含む薬物代謝物の分析は、大きな困難を伴う作業です。まず、マトリックス干渉を受けないよう分析対象成分を単離する必要があります。これらの成分は除去が容易でなく、質量分析計において、感度低下の原因となるイオン化抑制を引き起こす可能性があります。この種の研究では通常、元の薬物の消滅と代謝物の形成を同時にモニタリングする必要があるため、ダイナミックレンジも課題となります。また、少量のサンプルで低濃度の代謝物を検出するには、高い検出感度 (nM~fM) が必要です。さらに、分析には常に高い精度と再現性が求められ、しかもラボ間での移管が可能でなければなりません。
バイオアナリシスでより優れた結果を生み出す堅実なメソッド
バイオアナリシスメソッドで一般に必要とされる検出感度およびダイナミックレンジを考えれば、間違いなく LC/MS が最適でしょう。また、質量分析計の前段階で適切なクロマトグラフィーメソッドを使用すれば、最終的な分析結果も大幅に改善できる可能性があります。この記事では、プラズマサンプル中の 2 種類の薬物、メトトレキサートとスルファサラジンの定量を通して、バイオアナリシスにおける適切なクロマトグラフィーの重要性について説明します。この分析では、Agilent 1290 Infinity バイナリ LC システムと、Agilent 60-mm Max-Light 高感度フローセルを搭載した Agilent 1290 Infinity ダイオードアレイ検出器を使用しています。分析の操作には Agilent Chemstation OpenLAB CDS ソフトウェア (バージョン C.01.05) を使用しました[1]。
関節リウマチの併用療法: メトトレキサート + スルファサラジン
メトトレキサート (MTX) は、関節リウマチ (RA) 治療の「アンカードラッグ (anchor drug)」とされており、毒性が低く耐用性が高いことから最も有効な疾患修飾性抗リウマチ薬 (DMARD) の 1 つとなっています。ただし、通常、MTX 単独では疾患活動性を完全にコントロールすることはできません。実際、リウマチ専門医の 99 % が MTX を他の非生物学的 DMARD と併用しています。このような薬物の 1 つにスルファサラジン (SSZ) があります。MTX または SSZ 単独の分析メソッドは多数ありますが、MTX と SSZ を同時測定する分析メソッドは報告されていません。
図 1. SPE (上段) とタンパク質沈殿 (下段) を用いて、12.5 ng/µL の MTX および SSZ の標準血漿溶液を 304 nm で分析した HPLC クロマトグラム(図を拡大)
図 2. SPE を用いて 2 ng/µL の MTX (Rt = 3.6 分) および SSZ (7.2 分) の標準血漿溶液を 304 nm で分析した溶出プロファイルとブランク血漿のクロマトグラムを重ねたもの(図を拡大)
図 3. LLOQ で繰り返し分析した MTX のクロマトグラムとブランククロマトグラムを重ねたもの(図を拡大)
単純な HPLC/DAD メソッドによるメトトレキサートとスルファサラジンの定量
血漿中の MTX および SSZ の同時測定には、Agilent 1290 Infinity バイナリ LC システムを使用しました。2 つの成分間の選択性を高め、バックグラウンドマトリックス干渉を排除するように、クロマトグラフィーメソッドを最適化しました。また、オフライン固相抽出 (SPE) とタンパク質沈殿の 2 つのサンプル前処理法を比較し、それぞれの方法が最終的な分析結果に及ぼす影響を確認しました (図 1)。
タンパク質抽出と SPE の抽出効率は、血漿のキャリブレーション標準から得られた対象成分の曲線下面積 (AUC) と、濃度 12.5 ng/µL の標準溶液で測定された AUC を比較することにより評価しました。予測どおり、 Bond Elut C18 カートリッジ (100 mg、3 mL) で SPE を用いた方法の方が、より広いキャリブレーション範囲にわたって抽出効率、分離能、および検出感度が高くなりました。この結果を踏まえ、定量メソッドには SPE によるサンプル抽出を選択しました。
次に、MTX および SSZ の選択性と、マトリックスピークからの両成分の分離能が最も高くなり、分析時間が合計で 15 分以内に収まるようにクロマトグラフィーを最適化しました (図 2)。Agilent 3.0 x 150 mm、2.7 µm Poroshell カラムは対象成分の保持力が高いことがわかりました。また、グラジエント溶出を用いると分離能が最大になりました。グラジエント開始時の低有機濃度の移動相 (10 % 有機) で、初期の極性マトリックスバックグラウンドからの対象成分の分離能が最高になりました。また、再平衡前のグラジエント終了時に高有機濃度の移動相 (95 % 有機) を 5 分間にわたり保つことで、遅れて溶出する成分 SSZ についても、溶出の遅いマトリックス干渉から十分に分離できました。
メソッドにおける重要な分析性能基準のバリデーション
このメソッドでは、MTX については 0.02~100 ng/µL、SSZ については 0.1~100 ng/µL のダイナミックレンジにわたって直線性を示すことがわかりました。MTX の LOD および LLOQ はそれぞれ 0.01 ng/µL と 0.02 ng/µL、S/N 値は 6 と 10 でした。また、SSZ の LOD および LLOQ はそれぞれ 0.05 ng/µL と 0.1 ng/µL、S/N 値は 8 と 18 でした。図 3 は、LLOQ で繰り返し分析した MTX の一般的なクロマトグラムとブランクトレースを重ねたものです。LLOQ でのクロマトグラフィーの再現性は、注入を繰り返すことにより確認しました。LLOQ における AUC およびリテンションタイムの %CV は、MTX の場合はそれぞれ 0.02 % と 1.46 %、SSZ の場合はそれぞれ 0.01 % と 0.79 % でした。
品質管理サンプルを用いた、重要な分析性能基準である回収率、再現性、選択性、真度、および精度のバリデーションにより、さらにこのメソッドが FDA 指針に適合していることを確認しました。3 つの結果を表 1 にまとめます。
QC |
ターゲット (ng/µL) |
MTX (n=5) |
SSZ (n=5) | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
平均 |
精度 (%) |
CV (%) |
Rt RSD (%) |
AUC RSD (%) |
平均 |
精度 (%) |
CV (%) |
Rt RSD (%) |
AUC RSD (%) | ||
低 QC |
0.8 |
0.70 |
87.7 |
1.02 |
0.03 |
0.26 |
0.82 |
102.2 |
0.86 |
0.09 |
0.34 |
中 QC |
8.0 |
8.1 |
101.1 |
0.26 |
0.03 |
0.25 |
7.5 |
94.2 |
0.28 |
0.02 |
0.41 |
高 QC |
80.0 |
75.5 |
94.3 |
0.29 |
0.03 |
0.29 |
78.1 |
97.6 |
0.29 |
0.02 |
0.29 |
表 1. 平均回収率、真度、真度の %CV、リテンションタイム (Rt) の RSD、および AUC の RSD をまとめた QC サンプル結果
Agilent HPLC/DAD ソリューションによるバイオアナリシスメソッドの最適化
メトトレキサートとスルファサラジンの同時定量手法は、シンプルで堅牢な HPLC/DAD メソッドを用いた初の報告になります。このメソッドでは、より高い感度と、より広いキャリブレーションレンジを実現できます。ここで紹介した結果は、これまでに報告されている MTX 用の UV メソッドと比較して大幅に微量なプラズマサンプル (200 µL) において得られたものです。
また、このメソッドでは、バイオアナリシスメソッドに求められる重要な性能基準のそれぞれを最適化するうえで、適切なクロマトグラフィーが果たす役割が示されています。同様の研究で一般に必要とされる nM から fM のメソッド感度は、質量分析法を用いないと容易には得られません。また、この目標達成には、メソッド開発時にクロマトグラフィーを最適化することが不可欠です。
このアプリケーションの詳細については、LCGC マガジンの 2 月号をご覧ください。また、アジレントの医薬品業界向けソリューションをご覧ください。
References