欧州連合の新たな規則における食品および動物飼料分析用 GC/MS/MS に関する項目

John Lee
アジレントグローバルマーケティングマネージャ、食品科学

欧州連合 (EU) はこのほど、ダイオキシン分析に関する新たな規則 (欧州委員会規則 (EU) No 589/2014) を発表しました。この規則には、今回初めて、食品および動物飼料に含まれるダイオキシン、フラン (PCDD/F)、およびダイオキシン様ポリ塩化ビフェニル (DL-PCB) が最大許容値を超えていないことを確認するためのトリプル四重極ガスクロマトグラフィー/質量分析法 (GC/MS/MS) の使用に関する項目が盛り込まれました。

「この新たな規則の検査を実施できる分析ラボが増えれば、地球上の食物連鎖の保護を強化していく点で重要な一歩を踏み出せる。」と、リエージュ大学の有機・生物分析化学部、Jef Focant 教授は述べています。「我々の分析ラボのAgilent 7000C トリプル四重極 GC/MS システムで適用しているメソッドが、植物油に含まれる PCDD/F と DL-PCB の確認分析に関する欧州連合の規定要件を満たしていることを、既に実証しています。バリデーションの対象は、今後、植物油以外のマトリックスにも拡大されます。」Focant 教授の分析ラボは、欧州連合のダイオキシンおよびポリ塩化ビフェニル (PCB) に関する EU のナショナルリファレンスラボラトリーネットワークに属しており、食品の日常管理業務に取り組んでいます。

ダイオキシンおよびダイオキシン様化合物は、残留性有機汚染物質 (POPs) として知られる有毒な環境汚染物質です。これらの物質は、産業プロセスや一部の自然過程において副生成物として生じ、世界中に広く存在して、動物の脂肪組織内に蓄積されます。世界保健機構 (WHO) によれば、人への暴露の 90 パーセント以上が食品 (特に肉類、乳製品、魚貝類) に由来します。こうした危険物質の慢性暴露は、がん、生殖および発育の異常、深刻な免疫疾患を引き起こす可能性があります。

「これらの汚染物質の主な暴露経路は食品による。」と、ドイツ、ミュンスターの Chemical and Veterinary Analytical Institute Muensterland-Emscher-Lippe (CVUA-MEL) の Peter Fürst 教授は述べています。Fürst 教授の分析ラボでは、食品および動物飼料のダイオキシン分析用トリプル四重極 GC/MS システムについての全面的な評価を行いました。ガスクロマトグラフー高分解能セクター質量分析計 (GC/HRMS) とのサンプル比較を初めて行った研究所です。

この記事では、Fürst 教授の分析ラボで実施されたバックグラウンド調査の一部を紹介します。この情報は、ガスクロマトグラフィー/タンデム質量分析 (GC/MS/MS) でダイオキシンの確認に関する EU の規定要件を満たす上で役立ちます。研究の詳細については、アジレントのアプリケーションノート 5990-6594EN および 5990-6950JAJP でご覧いただけます。

GC/HRMS および GC/MS/MS による 50 種類の食品および動物飼料サンプルに関する分析の比較結果 (濃度上限値)

図 1. GC/HRMS および GC/MS/MS による 50 種類の食品および動物飼料サンプルに関する分析の比較結果 (濃度上限値)
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GC/HRMS および GC/MS/MS による 50 種類の食品および動物飼料サンプルに関する分析の比較結果 (濃度上限値)

図 1. GC/HRMS および GC/MS/MS による 50 種類の食品および動物飼料サンプルに関する分析の比較結果 (濃度上限値)

GC/HRMS および GC/MS/MS の分析により、3 pg TEQ/g 未満の結果が示された 40 種類の食品および動物飼料サンプルに関する分析の比較結果 (濃度上限値)。ML = EU 最大許容レベル、AL = EU 介入レベル

図 2. GC/HRMS および GC/MS/MS の分析により、3 pg TEQ/g 未満の結果が示された 40 種類の食品および動物飼料サンプルに関する分析の比較結果 (濃度上限値)。ML = EU 最大許容レベル、AL = EU 介入レベル
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GC/HRMS および GC/MS/MS の分析により、3 pg TEQ/g 未満の結果が示された 40 種類の食品および動物飼料サンプルに関する分析の比較結果 (濃度上限値)。ML = EU 最大許容レベル、AL = EU 介入レベル

図 2. GC/HRMS および GC/MS/MS の分析により、3 pg TEQ/g 未満の結果が示された 40 種類の食品および動物飼料サンプルに関する分析の比較結果 (濃度上限値)。
ML = EU 最大許容レベル、AL = EU 介入レベル

信頼性の高いシステムおよびメソッド

Agilent トリプル四重極 GC/MS システムは、Agilent J&W DB-5ms Ultra Inert GC カラムと組み合わせて使用することにより、直線性と、再現性、そして感度に優れた検出が可能となります。食品および動物飼料サンプルに含まれるポリ塩化ジベンゾパラジオキシン (PCDD) およびポリ塩化ジベンゾフラン (PCDF) コンジナーを、低濃度レベルである pg TEQ/g 値まで検出することができます。GC/HRMS および GC/MS/MS による食品および動物飼料サンプルの分析についての比較結果を見れば、この Agilent GC/MS/MSシステムが、これらのコンジナーについて EU 規則の規定要件を満たしており、定期的なスクリーニングに適していることを示しています。

図 1 と図 2 に、最新の分析例が示されています。この例では、5 種類の食品 (レバー、牛肉、鶏肉、鶏卵、および動物飼料) を抽出し、GC/HRMS を使用して分解能 R = 10,000 で分析を行いました。その後、同じサンプルを Agilent 7000 GC/MS/MS システムでも分析しました。

図 1 は、この 2 つの測定によるサンプル測定結果 (上限値) の比較を示したもので、GC/HRMS で得られた結果と GC/MS/MS で得られた結果の差異がパーセンテージ (%) で表示されています。

図 2 では、同じサンプルで 3 pg TEQ/g 未満を示したものについて、2 つの測定結果 (濃度の上限値) が比較されています。また、鶏肉、鶏卵、および動物飼料についての EU 法規制による最大許容レベルと介入レベルも示されています。

この例では、PCDD および PCDF コンジナーの上限値の総濃度レベルが 3 pg TEQ/g を超えた食品の場合、GC/MS/MS による定量結果と GC/HRMS で取得した値の差は ± 10% 内でした。濃度が 0.5 ~ 3 pg/g TEQ レベルの食品および動物飼料サンプルについては、GC/HRMS で取得された結果と GC/MS/MS で取得された結果の差は、± 10% から ± 20% の範囲内となりました。

効率的かつ正確なメソッド変換

Agilent トリプル四重極 GC/MS システムは、食品に含まれるダイオキシンに関する規制に対応する検査および試験に対する適合性をより高める機能も搭載されています。例えば、リテンションタイムロッキングソフトウェアでは、1 台の Agilent GC のリテンションタイムを別の GC で再現することができ、同じメソッドが世界中で使用することができます。また、金メッキ四重極はアナライザ部を 200 °C まで加熱できるため、汚染を起こさず、機器性能も最大 1050uまで 向上しています。これらの機能により、手間と時間を要する四重極のメンテナンスも不要です。このことは、Agilent GC/MS システムが、長期にわたって安定したチューニング性能とメソッドを維持できることも示します。

革新的な新しいソース技術を搭載した新しい Agilent 7010 トリプル四重極 GC/MS は、8 倍の高感度を実現しました。9 月にマドリッドで開催された Dioxin 2014(残留性有機ハロゲン系汚染物質国際シンポジウム)で、Fürst 教授からこの機器を使用した新しいデータが提示されました。このデータは、オンデマンドで入手可能です。

アジレントでは、GC/MS/MS システムおよびアプリケーションに加え、食品に含まれる残留性有機汚染物質の評価を行うための様々なソリューションも提供しています。環境の各種規制に対応する残留性有機汚染物質の同定、定量化、および確認、極めて低いレベルの濃度の検出などの情報については、アジレントの最先端検出ソリューションをご確認ください。