エクスポソームとは、個人が生涯において曝露する化学物質の総量を指します。この曝露には、外因的曝露 (食品、汚染物質、イオン化放射、薬剤、ライフスタイル上の要因、感染など) と、内因的曝露 (ヒトおよび微生物叢の代謝、酸化ストレス、脂質過酸化反応、感染、既往症など) があります。「つまり、エクスポソームとは、『ゲノム』ではないものすべてを指し、従来の各種『ome (オム)』のすべてが含まれます」。[1].
現在の曝露科学は、単一の曝露と単一の影響を測定するシングルポイントのボトムアップ型アプローチから、トップダウン型の探索アプローチへ移行しつつあります。非ターゲットテクニックで関連バイオマーカーを特定したのち、ターゲットアプローチにより、曝露と疾患バイオマーカーを識別します。従来、曝露 (つまりエクスポソーム) の測定は、自己記入質問書に頼ったもので、これは過去 1 世紀にわたって変わっていません。しかし、このようにラボベースのエクスポソーム測定テクニックおよびメソッドが欠けていることについて、急速に対策が練られています。
血中エクスポソームの測定
全エクスポソーム関連研究 (EWAS) およびフォローアップ研究に必要な高度なマルチプレックス、感度、スループットの組み合わせを実現することは、きわめて大きな技術的難問です。非ターゲット EWAS は、数百人規模の被験者から採取した 10~50 µL 程度の血液、血清、血漿を用いておこなう必要があります。また、数千人の被験者から採取した同量のサンプルを用いて、その後のバイオマーカーターゲット分析をおこなうことも求められます。そうした分析に適したシステムは、LC または GC と飛行時間型 (TOF) 質量分析を組み合わせた、優れた感度と質量精度を備えたシステムです。バイオマーカー候補のフォローアップ研究では、ロボティクスおよびマルチプルリアクションモニタリングによるトリプル四重極 MS が用いられます。
分析戦略
データ駆動型 EWAS およびハイスループットのターゲット型フォローアップ研究に求められる感度と精度を確保するためには、専用のナノフロー LC/TOF および LC/トリプル四重極、GC/TOF、GC/トリプル四重極が必要です。
最近の非ターゲット分析 [2] では、Agilent 1200 Infinity シリーズと Agilent 6538 UHD Accurate-Mass Q-TOF LC/MS の、低分子 EWAS に理想的な組み合わせが用い、逆相 LC とポジティブおよびネガティブモードの親水性相互クロマトグラフィーにより、100 µL の血清または血漿サンプル 1 つから、3 万を超える固有のフィーチャーが測定されました。
もう 1 つの戦術は、Agilent 7890B GC と Agilent 7200 Q-TOF を用いて Agilent-Fiehn GC/MS メソッド [3] を修正し、メトキシアミン塩酸塩および N-メチル-N-(トリメチルシリル) トリフルオロアセトアミドで誘導体化した血清抽出物を分析する方法です。
網羅的分析から個別分析へ
生物学的に意味あるマーカーが推測され確認されたのちは、因果関係のある曝露および疾患進行のバイオマーカーを測定するために、ターゲット型のハイスループット分析が必要となります。その一例が、Agilent 7890B GC と Agilent 7000C シリーズトリプル四重極 を用いた内分泌かく乱物質の測定です [4]。
データが採取されたら、高度なバイオインフォマティクスソフトウェアにより、汚染物質中のバイオマーカー濃度を比較し、変化量を調べる必要があります。Agilent Mass Profiler Professional (MPP) ソフトウェアは、GC/MS、LC/MS、CE/MS、ICP-MS データ解析用の高度な統計解析および視覚化ツールを備えています。これらのツールは、主要フィーチャーの特定や大規模解析に使用することができます (図 1)。
図 1. Agilent Mass Profiler Professional ソフトウェアによる有機酸尿バイオマーカーの主成分分析。(図を拡大)
尿中エクスポソームの測定
メープルシロップ尿症 (MSUD) は、タンパク質合成に関連する 3 つのアミノ酸が適切に代謝されないため、血流内で有害なレベルにまで蓄積し、酸性尿が生じる疾患です。ほとんどの有機酸尿は遺伝子異常に直接関連していますが、キシレン異性体 (塗料用溶剤に一般的に使用) などの外因性および医原性要因や腸内毒素症により引き起こされるケースも多く見られます。
シングル四重極 GC/MS を使えば、MSUD などの有機酸尿 (UOA) を同定および定量し、人のライフステージ全体にわたる UOA エクスポソームのプロファイルを構築することができます。Agilent J&W HP-5ms ウルトライナート GC カラムは、こうした分析に最適です。出生時にベースラインデータを採取すれば、その後のデータと比較し、疾患の発症や進行をモニタリングすることが可能です。統計解析を用いて、個人曝露エクスポソームに関する大規模なコホート研究(暴露有無を設定し、免疫的差を研究する)を評価および比較し、新たな UOA バイオマーカーを測定することもできます (図 1)。また、化学物質曝露のモニタリングをおこなえば、ヒトの疾病率や死亡率に影響を与える疾患の研究において、リスク要因や新たなバイオマーカーの特定を円滑化することが可能です。このモデルは、疾患におけるゲノムと環境の関連性の研究にも役立ちます。
アジレントのエクスポソームソリューション
ヒトの慢性疾患の 70~90 % は環境要因に起因し、固有の遺伝的変異性によるものではないと推定されています。アジレントの提供する各種ツールは、こうした広大な未踏領域の分析を支援し、昔からある人間や動物の健康に対する環境上の脅威について新たな知見を得るためのものです。詳細については、アジレントアプリケーションノート 5991-3418EN「血中エクスポソームを用いた疾患原因の探究 (Using the Blood Exposome to Discover Causes of Disease)」および 5991-3541JAJP「ターゲット・エクスポソミクス: 尿有機酸プロファイリング (Targeted Exposomics:Profiling Urinary Organic Acids)」をご覧ください。
References