Agilent Poroshell 120 EC-C18 などの表面多孔性アルキル相は、逆相 LC に広く使用されています。しかし、必要な選択性や堅牢性、再現性が簡単に得られず、分離に困難が生じることもあります。そうした分離には、より選択性の高い相が必要となることがあります。ここでは、3 つの分析 (25 成分混合物、ベータ阻害剤、ステロイド) における 3 種類の Agilent Poroshell 120 相の選択性の違いを説明します。
メソッド開発を成功させるためのロードマップ
メソッド開発は通常、短い C18 カラムとアセトニトリル、低 pH バッファで開始します。多くの場合、この組み合わせが機能します。うまくいかない場合は、別のカラムケミストリと移動相の組み合わせを試します。過去の研究では、異なるカラムと溶媒の使用による分析条件の最適化について説明しています [1]。汎用的なグラジエントを用いて、各種の全多孔性および表面多孔性カラムの保持挙動を比較しました。
今回の研究でも、同様のアプローチを採用しました。中性、酸性、塩基性化合物のリテンションタイムを測定し、各カラムを比較しました。測定したリテンションタイムを、一般的に用いられる LC 条件 (C18 カラム、アセトニトリル溶媒、pH 3 バッファ) で得られたリテンションタイムに対してプロットしました。直線の傾きは、C18 カラムと比べた相互作用の相対的な強さを示しています。
測定係数 (R2) は、相互作用の相違または直交性を示しています。1 という値は類似の度合いが高いことを、0.5 という値は類似の度合いがきわめて低いことを示します。表 1 に、各カラム・溶媒の組み合わせの傾きと R2 値をまとめています。
カラム |
MeCN 傾き |
MeCN R2 |
MeOH 傾き |
MeOH R2 |
Poroshell 120 EC-C18 |
1 |
1 |
1.1690 |
0.897 |
Poroshell 120 Bonus-RP |
0.9447 |
0.8642 |
0.9217 |
0.9015 |
Poroshell 120 Phenyl-Hexyl |
0.8285 |
0.9875 |
1.024 |
0.8606 |
R2 = 測定係数
MeCN = アセトニトリル
MeOH = メタノール
表 1. 各種のカラム・溶媒の組み合わせと、アセトニトリルおよび pH 3 のギ酸アンモニウムを用いた場合の Poroshell 120 EC-C18 との比較。
移動相の変更による選択性の変化
アセトニトリルをメタノールに変更するだけで、ある程度の選択性の変化が得られます。アセトニトリルと比べると、メタノールは弱い溶媒で、UV カットオフ値が高く、背圧も高くなります (粘度が高いため)。アセトニトリルとメタノールで分離の選択性が異なるのは、有機溶媒分子の化学的特性が異なるためです。たとえば、メタノールはプロトン性ですが、アセトニトリルは非プロトン性です。
図 1. メタノールまたはアセトニトリルを用いた25 成分混合物分離の比較。 (図を拡大)
図 2. Agilent Poroshell 120 EC-C18 カラムと Bonus-RP カラムにおける塩基性化合物 (ベータ阻害剤) 分離。 (図を拡大)
一般に、アセトニトリルは LC に適した第 1 の選択肢です。しかし、アセトニトリルでは適切な分離が得られない場合は、メタノールを試してみるといいでしょう。メタノールと C18 カラムを用いると、表 1 の傾きは大きくなりますが、これはメタノールの溶媒強度が弱いためです。図1 に見られるように、初期に溶出するいくつかのピークは、メタノールを用いた場合のほうが良好に分離されており、アセトニトリルとは異なる順序で溶出しています。
カラム相の変更による選択性の変化
溶媒の変更のほか、カラムの結合相を変更して選択性を変化させることもできます。Agilent Poroshell 120 Bonus-RP は、水素結合供与基をもつ化合物と強く相互作用します。表面多孔性 Poroshell 120 の Bonus-RP 相では、疎水性 C14 アルキル鎖に挿入された埋め込み型極性基により、シラノールと極性サンプルの相互作用が最小限に抑えられ、幅広いアプリケーションで左右対称のピークが得られます。埋め込み型極性基には、疎水性鎖を湿らせ、水性度の高い移動相で相が崩壊するのを防ぐ効果もあります。
表 1 の傾きが示すように、Poroshell 120 Bonus-RP カラムの保持力は C18 カラムよりも低くなっていますが、フェノールなどの一部の化合物種では保持力が高くなっています。図 2 に示すような塩基では保持力が低下しますが、そうした化合物でもピーク形状は向上します。
図からもわかるように、どちらのカラムでも、7 種類すべての化合物を分離できました。Poroshell 120 EC-C18 カラムでは、メトプロロールとアセブトロールがきわめて近くで溶出し、ナドロールは同じ分子イオンによりダブルピークになっています。ナドロールのダブルピークは、ジアステレオマーに起因すると考えられます。
Poroshell 120 Bonus-RP カラムでは、2 次的な相互作用が最小限に抑えられるため、このダブルピークは見られませんでした。Poroshell 120 Bonus-RP カラムでは、ピーク 6 と 7 (プロプラノロールとアルプレノロール) の溶出順序も C18 カラムと逆になりました。
Agilent Poroshell 120 Phenyl-Hexyl は、芳香族性または共役性をもつ化合物と強く相互作用します。一般に、アセトニトリルを使用する場合には、そうした相互作用は見られません。これは、カラムと分析対象物の間で見られる π-π 相互作用のほうが大きいためです。
Poroshell 120 Phenyl-Hexyl は、π-活性電子供与基および電子求引基をもつ化合物で高い選択性を示します。これらの基には、ハロゲン、ニトロ基、エステル、酸などがあります。図 3 は、メタノールを用いたステロイドの分離を示しています。背圧を抑えるために、温度を若干高くしています (40 °C)。この例の場合、Poroshell 120 EC-C18 カラムでは、ベータエストラジオールとプロゲステロンでオーバーラップが見られます。しかし、Poroshell 120 Phenyl Hexyl 相では、8 種類の化合物がベースラインで分離されています。
メソッド開発スキームの一環として、汎用的なグラジエントを用いた調査メソッドを追加すれば、分析上の問題を迅速に解決することができます。この記事では、カラムや、アセトニトリルおよびメタノールなどの有機修飾剤を変更することで選択性を変化させ、分離を最適化できることを説明しています。Agilent Poroshell 120 LC カラムを使えば、分析時間を短縮し、サンプルスループットを高めることが可能です。7 種類の結合相が用意され、その数が継続的に拡充されている Agilent Poroshell 120 は、結合相を選択してメソッド開発を成功させるうえで必要な柔軟性を提供しています。
References