Access Agilent 2012年10月号

食品および飲料に含まれる無機ヒ素の LC-ICP-MS による微量分析

Tetsushi Sakai
アジレントアプリケーションエンジニア ICP-MS
Ed McCurdy
アジレント ICP-MS 製品マーケティング

食品中の有害化学物質の存在については一般に高い関心が寄せられているため、食品メーカーや規制機関は、有害と見なされるレベルよりも低い濃度でそのような化学物質を確実に監視し、制御できるよう努力を続けています。

ヒ素 (As)、スズ (Sn)、水銀 (Hg) などの微量元素の場合、元素の化学形態、つまり化学種が毒性に劇的な影響を与えます。したがって、元素の総量を単純に定量しただけでは、食品の安全性を評価するための十分な情報は得られません。例えば、亜ヒ酸 (As(III)) やヒ酸 (As(V)) などの As の無機形態には、一般的な有機形態よりも格段に高い毒性があります。

これらの元素のさまざまな化学種をクロマトグラフィによって分離した後、ICP-MS を使用して化学種に固有の定量を実行する方法が、現在では適切な分析アプローチとして広く使用されています。

リンゴジュース中のヒ素化学種の正確な定量

リンゴジュースに高いレベルの無機 As が含まれることが懸念されており、一部には、これらのレベルが、米国環境保護庁 (US EPA) が飲料水中の As について設定している制限 (10 µg/L または ppb) を超えるという報告もあります。リンゴジュース中のヒ素は、ヒ素系農薬、ヒ酸水素鉛(II)、ヒ酸カルシウムの歴史的な利用に由来するものです。普及していたこれらの化学物質の使用は 1970 年代に中止されましたが、残留性があるため、汚染された土地で栽培された穀物に現在でも影響を与えている可能性があります。

この実験では、Agilent 1200 Infinity LCAgilent 7700x 四重極 ICP-MS と結合して使用し、スーパーマーケットで購入した 6 種類の市販のリンゴジュースに含まれる As を分離し、測定しました。リンゴジュースサンプルは、単純なろ過と脱イオン水による 2 倍希釈によって前処理し、化学種の相互転換を最小限に抑え、検出下限を維持しました。対象となる化学種、As(III)、As(V)、および有機形態のアルセノベタイン (AB)、ジメチルアルシン酸 (DMA)、モノメチルアルソン酸 (MMA) を、アニオン交換ガードカラム (Agilent P/N G3154-65002、内径 4.6 mm x 10 mm、ポリメタクリレート) の後、As スペシエーションカラム (Agilent P/N G3288-80000、内径 4.6 mm x 250 mm、ポリメタクリレート) を使用して分離しました。

As(III) および As(V) のキャリブレーション (10 ~ 500 ng/L (ppt))

図 1. As(III) および As(V) のキャリブレーション (10 ~ 500 ng/L (ppt))
(図を拡大
)。

 As(III) および As(V) のキャリブレーション (10 ~ 500 ng/L (ppt))。

図 1. As(III) および As(V) のキャリブレーション (10 ~ 500 ng/L (ppt))

種類の水銀種分析の検量線は、優れた直線性を示しています。

図 2. 4 種類のリンゴジュースサンプルに
含まれる As 化学種のクロマトグラムの重ね表示 (図を拡大)。

4 種類のリンゴジュースサンプルに含まれる As 化学種のクロマトグラムの重ね表示

図 2. 4 種類のリンゴジュースサンプルに含まれる As 化学種のクロマトグラムの重ね表示

毒性がある無機 As 化学種のキャリブレーションを図 1 に示します。キャリブレーションの範囲は 10 ~ 500 ng/L (ppt) で、サブppbレベルでは良好な感度と直線性を示しました。

4 種類のリンゴジュースサンプルに含まれる As 化学種のクロマトグラムを図 2 に示します。最初に溶出するピークがアルセノベタイン (AB) であることに注意してください。この物質はカラムに保持されないため、ボイドボリュームで溶出します。ボイドボリュームでは、カラムに保持されないその他の中性または陽イオン化学種と AB が共溶出することもあります。AB は、ここで説明する LC-ICP-MS メソッドを使用して測定できますが、共溶出する他の化学種がサンプルに含まれる場合は結果に偏りが生じます。ただし、AB は非常に高い濃度でも毒性がないと考えられているため、この制限は食品安全性アプリケーションでは問題にはなりません。

食品安全性を目的とした場合、分離し、正確に定量する必要がある重要な微量の化学種は As(III) と As(V) で、これらを合計したものが「総無機ヒ素」です。

6 種類のすべてのリンゴジュースサンプルに含まれる各化学種の濃度を表 1 に示します。この結果を、サンプル前処理で適用した 2 倍希釈に基づいて補正します。これらの結果により、すべてのサンプルにある程度の無機 As が含まれていることは明らかですが、そのレベルは低く、US EPA の飲料水に関する制限の半分以下になりました。


サンプル

AB

DMA

As(III)

MMA

As(V)

総無機 As
(As(III) + As(V))

サンプル名

希釈倍率

濃度 [µg/l]

濃度 [µg/l]

濃度 [µg/l]

濃度 [µg/l]

濃度 [µg/l]

濃度 [µg/l]

リンゴジュース 1

2 0.036 0.189 0.724 N/D 0.651

1.375

リンゴジュース 2

2

0.026

0.022

0.041

N/D

0.058

0.099

リンゴジュース 3

2 0.02 0.267 0.883 1.587 0.758

1.641

リンゴジュース 4

2

0.039

0.208

0.992

1.466

1.958

2.95

リンゴジュース 5

2 0.043 0.209 1.256 0.785 0.709

1.965

リンゴジュース 6

2

0.036

0.235

1.098

N/D

0.068

1.166

ND = 未検出

表 1. 6種類のリンゴジュースサンプルに含まれる 5 つの As 化学種の濃度

低 ppt レベルにおけるヒ素化学種の正しい分析

ここまで、リンゴジュースに含まれる数十 ppt レベルの As 化学種の分析に 7700x が適していることを示しました。単純なサンプル前処理、低い希釈率、迅速で信頼性の高いクロマトグラフィ分離により、このメソッドが飲料中の As の日常的な監視に適したメソッドであることが確かめられました。

また、同じリンゴジュースサンプルについて、7700 シリーズ ICP-MS よりも高い感度と低い検出下限を持つ Agilent 8800 ICP-QQQ を LC メソッドと組み合わせた測定も行いました。

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