Access Agilent 2012年2月号

IDL - 超低ノイズ GC/MS/MS システムの優れた性能指標

Elizabeth Almasi
アジレント製品マーケティングマネージャ、
トリプル四重極 およびイオントラップ GC/MS

感度は、機器性能をはかる重要な指標で、分析対象物の最小検出値として解釈されます。アジレントでは、OFN (オクタフルオロナフタレン) などのテスト用標準試料の注入時にノイズが非常に低い GC/MS システムにおいて、感度をより確実にはかることのできる新たな仕様指標として、機器検出下限 (IDL) を採用しました。

クロマトグラフィ測定の時間の関数として示される従来の分析シグナルとノイズ

図 1. クロマトグラフィ測定の時間の関数として示される従来の分析シグナルとノイズ
(図を拡大)。

クロマトグラフィ測定の時間の関数として示される従来の分析シグナルとノイズ

図 1. クロマトグラフィ測定の時間の関数として示される従来の分析シグナルとノイズ

30 年から 40 年ほど前は、ほとんどの LC、GC、GC/MS システムの感度が、シグナル/ノイズ比 (SNR) の測定により決定されていました。SNR 値は、テスト用化合物を分析し、観察されたノイズに対するシグナルの値をレポートすることで得られます。たとえば、1976 年に発売された Hewlett-Packard (HP) 5992 GC/MS システムでは、次のような感度仕様が採用されていました。「ステアリン酸メチル 1 ng をオンカラム注入し、毎秒 190 amu でスキャンした場合、分子イオン (298.3) においてシグナル/ノイズ比 10:1 以上のスペクトルが得られる」。このシステムの制御端末は、「16K、16 ビットワードメモリの HP 9825A カルキュレータ」で構成されていました。当時、この機器は最先端の性能をもち、市場で最高のベンチトップ型 GC/MS でした。

当時は、シグナルと観察されるノイズの両方を手動で測定し (ものさしを使用)、SNR を決定していました。機器性能の進歩により SNR 値が向上すると、テスト用化合物の濃度が低くなり、有意な SNR 値は 10:1 前後となりました (図 1)。

著しい感度の向上により検出下限が低下

過去 40 年で、検出下限は劇的に向上しました。注入口でのサンプル移動の向上、キャピラリカラムによる分離の効率化、検出器設計の大幅な進歩により、Agilent 7000B トリプル四重極 GC/MS を用いた電子イオン化 (EI) MS/MS モードの場合、OFN 100 fg を確実に検出できるようになりました。この濃度は、35 年前の最先端機器の仕様で示された 1 ng という値の 1 万分の 1 です。

ノイズ領域の選択の重要性: 5 秒のノイズ幅における 0.01 分というわずかな変化でも、SNR が 3335 から 10785 に変動しています

図 2. ノイズ領域の選択の重要性: 5 秒のノイズ幅における 0.01 分というわずかな変化でも、SNR が 3335 から 10785 に変動しています
(図を拡大)。

ノイズ領域の選択の重要性: 5 秒のノイズ幅における 0.01 分というわずかな変化でも、SNR が 3335 から 10785 に変動しています

図 2. ノイズ領域の選択の重要性: 5 秒のノイズ幅における 0.01 分というわずかな変化でも、SNR が 3335 から 10785 に変動しています

この著しい感度の向上の一因が、MS/MS 検出モードです。MS/MS モードでは、標準のみを注入した場合に、ノイズが最小限に抑えられます。この超低ノイズにより、標準を用いた MS/MS 測定における有意なノイズ値の選択は、不可能ではないにしても、きわめて困難になります。現在、GC/MS/MS システムを制御するパーソナルコンピュータは、2~4 GB (ギガバイト)のメモリを備えているため、「昔ながらの」ピーク間のノイズ計算ではなく、RMS (二乗平均平方根) ノイズなどの高度なアルゴリズムを使用することが可能です。ソフトウェアでは、データを素早く評価し、もっとも「望ましい」ノイズ領域を選択することができます。最高の SNR 値を出すために、ノイズ 0.1 カウントよりも低く報告されることもしばしばです。しかし、ノイズが少しでも変化すると (たとえば 0.01 カウントから 0.1 カウント) 、シグナルが変化しない場合でも、SNR が大きく変化することになります (図 2)。こうした変動のある SNR は、システム感度を評価するのに適した指標とはいえません。

より一貫した感度評価を可能にする新指標

アジレントでは、より正確に機器性能をはかるために、IDL を採用しました。この新指標を使えば、Agilent 7000B トリプル四重極 GC/MS システム全体を、より確実に定義することができます。

IDL 値は、1 回の手動注入ではなく、複数回の一連の自動注入から得られます。EI/MS/MS モードにおける OFN100 fg の 8 回連続分析で得られた面積カウントが積分され、面積 %RSD (パーセント相対標準偏差) が算出されます。この %RSD 値から、基本的な統計公式を用いて、信頼度 99 % にもとづいて IDL が決定されます。この IDL 算出手法は、米国環境保護庁 (EPA) が義務づけているほか、多くの国際的な組織により推奨されています。

IDL は、再現性にもとづく客観的な指標です

図 3. IDL は、再現性にもとづく客観的な指標です (図を拡大)。

IDL は、再現性にもとづく客観的な指標です

図 3. IDL は、再現性にもとづく客観的な指標です

図 3は、2 % RSD という結果が出た 8 回連続注入の面積レスポンスを示しています。クロマトグラムはほぼオーバーラップしており、測定シグナルにはほとんど違いがありません。しかし、同じデータファイルからは、2480~244035 の範囲の SNR 値が導き出され、平均値は 39996 でした。SNR 値の %RSD は 207 % でした。この結果は、超低ノイズ測定に用いる場合、SNR の処理がほとんど制御不能になることを示しています。

IDL の計算は、OFN の 8 回連続スプリットレス注入で得られたデータをもとにしています。IDL なら、オートサンプラから GC 注入口、分離、MS 本体までのシステム全体をテストすることができます。また、ほとんどの科学者が日常的に用いているのと同じ種類の測定 (RSD および算出量) をベースにしています。

IDL は、あらゆるラボの毎日の作業において重要な要素となる再現性にももとづいています。また、IDL 測定は、ラボでの据付プロトコルの一環としておこなわれます。そのため、ほとんどの MS/MS システムで実行できる分析により、据付テストを調整することができます。

HP 5992 が 35 年前の最先端の分析機器だったように、IDL は現代の MS/MS の最先端のコンセプトです。機器の進歩により、生成されるデータの種類とテストプロトコルを一致させる必要が生じています。超低ノイズの MS/MS 分析の場合、SNR ではシステムを確実に測定できません。IDL こそ、この役目に適した理想的な指標です。