Access Agilent 2012年1月号

ICP-MS を使用した有機溶媒の分析の向上

Ed McCurdy、Junichi Takahashi、Yu-Hong Chen
Agilent ICP-MS プロダクトスペシャリスト

これまで、有機溶媒に含まれる微量元素の分析は、ICP-質量分析法よりも誘導結合プラズマ発光分光分析法 (ICP-OES) に適したアプリケーションと見なされてきました。また、ASTM (米国材料試験協会) などの組織により定義されるメソッドでは、今でも通常は、石油化学のルーチン分析に ICP-OES が推奨されています。

ただし、液体クロマトグラフィを使用した石油化学、半導体、新素材、薬学、および化学種分析の多くの新しいアプリケーションでは、ICP-OES の検出下限以下のレベルで対象の元素を定量する必要があります。したがって、有機溶媒に含まれる微量元素の低レベル (ppb および ppb 未満) 分析のための堅牢なルーチン ICP-MS メソッドにますます関心が集まっています。

最近になり、アジレントの R&D およびアプリケーションスペシャリストは、Agilent 7700 シリーズ ICP-MS を使用した揮発性有機溶媒のルーチン分析の性能を高めるために、新しいハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、および分析方法を開発しました。

課題への対応

いくつかの理由により、水との混和性のない有機溶媒の測定は、ICP-MS では困難です。ここでは、Agilent 7700 がこの課題への対応に役立つ方法を確認しました。

耐溶媒性に優れたサンプル導入。ICP-MS で使用する標準 (水溶性) サンプル導入コンポーネントの一部には、測定対象の特定の溶媒に対する耐性がないため、Agilent 7700 シリーズ有機溶媒導入キットに含まれるコンポーネントなど、耐溶媒性を持つ別のコンポーネントに置き換える必要があります。

すすの堆積を防止。非常に高レベルの (溶媒由来の) 炭素が存在しており、(水を使用しないことにより) 酸素がないため、分解されない炭素 (すす) がインタフェースコーンに堆積し、コーン開口部が詰まったり、感度が迅速に失われたりすることがあります。7700 のオプションのガスラインが、プラズマへの酸素 (アルゴンに 20% 混合) の流れを厳密に制御しているため、炭素マトリックスが確実に分解され、すすの堆積が発生しません。

プラズマのクリアな表示。特定の溶媒の酸素の流れを最適化するには、分析者がプラズマをはっきりと確認できなければなりません。これが、7700 の大きいプラズマ表示ウィンドウにより可能になりました。

より堅牢なプラズマ。通常は、有機溶媒の蒸気圧は水溶性溶媒よりも大幅に高いため、特に溶液の流量が高い場合には、プラズマに点火し、維持するのが困難です。Agilent 7700 にはペルチェ冷却スプレーチャンバが標準で含まれており、チャンバを -5°Cに冷却することで溶媒の蒸気圧が下がり、プラズマの安定性が向上します。

7700 の水溶性サンプル分析に標準で使用する内径 (ID) 2.5 mm のトーチの代りに、ほとんどの揮発性溶媒には幅の狭い (1 mm ID) トーチを使用しました。ただし、このトーチによって感度が下がり、その結果 DL が低下します。先ごろ、揮発性溶媒分析に対応する新しい内径 1.5 mm のトーチ設計が開発されました。このトーチは、1.0 mm トーチよりも高い感度を提供すると同時に、標準の 2.5 mm トーチよりも揮発性溶媒に対するプラズマの耐久性が向上しています。新しいトーチに加えて、新しいファームウェアバージョンと新しいプラズマ点火シーケンスも開発されました。このような開発の組み合わせにより、石油エーテル (ベンジン)、ナフサ、アセトンなどの高い揮発性を持つ溶媒を使用する場合でも、プラズマを点火し、維持することができます。

n-ヘプタンにおける ppb 未満のレベルでの V のキャリブレーション。1.95 ng/kg (ppt) の検出下限を示します。

図 1. n-ヘプタンにおける ppb 未満のレベルでの V のキャリブレーション。1.95 ng/kg (ppt) の検出下限を示します。 (図を拡大)。

n-ヘプタンにおける ppb 未満のレベルでの V のキャリブレーション。1.95 ng/kg (ppt) の検出下限を示します。

図 1. n-ヘプタンにおける ppb 未満のレベルでの V のキャリブレーション。1.95 ng/kg (ppt) の検出下限を示します。

長期安定性 (1 時間 10 分) と、ナフササンプルに対する Conostan S-21 スパイクの回収率の %RSD。すべての元素を 1 ng/g (ppb) でスパイクし、He モードで測定しています。

図 2. 長期安定性 (1 時間 10 分) と、ナフササンプルに対する Conostan S-21 スパイクの回収率の %RSD。すべての元素を 1 ng/g (ppb) でスパイクし、He モードで測定しています。 (図を拡大)。

長期安定性 (1 時間 10 分) と、ナフササンプルに対する Conostan S-21 スパイクの回収率の %RSD。すべての元素を 1 ng/g (ppb) でスパイクし、He モードで測定しています。

図 2. 長期安定性 (1 時間 10 分) と、ナフササンプルに対する Conostan S-21 スパイクの回収率の %RSD。すべての元素を 1 ng/g (ppb) でスパイクし、He モードで測定しています。

これらの技術革新によって溶媒の低温プラズマ分析もより堅牢になり、その結果、超高純度の半導体用溶媒向けの幅広い測定オプションが提供されます。

干渉の軽減または排除。サンプルマトリックスには高レベルの炭素が存在するため、一部の対象化合物に影響を与える新しい多原子干渉が発生します (24Mg に対する 12C2、28Si に対する 12C16O、52Cr に対する 40Ar12C が顕著)。これらの干渉は、可能な限り低い検出下限を提供するオプションの H2 セルガスラインとともに、7700 のコリジョン/リアクションモードを使用して、効果的に軽減または排除することができます。

一般的なキャリブレーションと結果の例

沸点の範囲が 30 ~ 90°C の高純度揮発性溶媒をいくつか測定しました。多元素有機金属標準原液 (Conostan S-21) を溶媒に希釈し、低レベルの、また ng/g (ppb) 未満レベルのキャリブレーション標準を重量パーセントで調製します。

図 1 に、n-ヘプタンで取得したバナジウムの低レベル (ng/g、ppb 未満) のキャリブレーションを、図 2 に、ナフササンプルに対する 1 ng/g の多元素スパイクで得られた信号の優れた長期安定性 (1 時間以上) を示します。

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