Access Agilent 2011年9月号

ICP-MS による太陽光発電効率の向上

Junichi Takahashi
アジレントシニア ICP-MS アプリケーションケミスト

天然化石燃料の発見と抽出が困難になるにつれて、代替エネルギー源の研究が強化されてきました。このような化石燃料は地球温暖化の原因になるだけではなく、その使用には、地質学的、環境的、また政治的な問題が関連しています。多くの代替発電手段の中で、太陽光または光電池 (PV) が 2004 年以降最も高い年間成長率を示しています。通常はシリコンウェハで構成される光電池パネルは、太陽のエネルギーを電気に変換します。ただし、このプロセスの効率は比較的低いため、変換効率の向上が主要な目標となっています。

不純物は PV パネルの変換効率を低下させます。つまり、PV パネルのウェハの製造に使用する多結晶質シリコン (ポリシリコン) に含まれる金属不純物のレベルを厳密に制御しなければなりません。ICP-MS を使用して PV グレードのシリコンを分析する有効なメソッドはアジレントにより既に開発されています [1]。デバイスの効率をさらに向上させるために、PV シリコンメーカーは、ポリシリコンの製造に使用する化学薬品に含まれる不純物の測定に注目しています。

ICP-MS メソッドがもたらす最大の感度

標準の Agilent 7700s ICP-MS をトリクロロシラン (TCS) の分析に使用しました。この化合物は、超高純度ポリシリコンの製造に一般に使用されます。7700s は、すべての ICP-MS 機器の中で最も広範囲の干渉除去技術を備えています。従来のノーガスモードに加えて、7700s は冷却プラズマモードでも動作し、独自の第 3 世代オクタポールリアクションシステム (ORS3) を使用します。ORS3 は、不活性セルガス (ヘリウム) を使用するコリジョンモードと、反応性セルガス (水素など) を使用するリアクションモードの両方で有効な干渉除去を提供します。干渉除去アプローチは分析要件に基づいて選択します。このアプリケーションでは、あらゆる対象化合物に最大の感度が必要なため、すべての対象化合物/干渉について最も有効な干渉除去モードが必要でした。4 つのステップ (冷却、ノーガス、He モード、リンに最も低い DL を提供するための修正 He モード) を特長とするデータ取り込みプロトコルを使用しました。

表 1. 2 つの TCS サンプルの Agilent 7700s ICP-MS による検出下限と定量分析の結果 (図を拡大)

TCS での微量元素の定量分析

0.4% 塩酸 (HCl) に 0、1、2、および 5 ppb の濃度になるように溶解した 4 つの多元素キャリブレーション標準溶液を分析することで 7700s のキャリブレーションを行いました。汚染物質が加わる可能性を避けるために、内部標準は使用しませんでした。検出下限 (DL) をキャリブレーションブランクの 3 σから計算し、表 1 に示しました。V および As で見られる低 ppt の DL は、HCl マトリックスで ClO+ (51V+ 上) および ArCl+ (75As+ 上) の多原子干渉が有効に除去されていることを示します。また、リンの 0.1 ppb の DL は、31P+ 上の NO+/NOH+ の除去の方法が有効であることを示しています。

TCS を溶解し、次に揮発性元素 (ソーラーシリコンの重要な微量汚染物質である B を含む) を確実に保持しながら Si マトリックスを除去するといった新しいサンプル前処理手順に従って 2 つの TCS サンプルを分析用に調製しました。表 1 には、試薬ブランク減算後の定量分析の結果も示します。サンプル A は半導体企業から入手した高純度 TCS サンプルであり、ガラスバイアルに保管されていました。サンプル B も半導体企業から入手したものですが、ステンレススチール製圧力ベッセルで輸送されました。この結果が示すように、サンプル B にはサンプル A よりも大幅に高いレベルの Fe、Ni、および Cr が含まれており、ステンレス容器が原因となる金属汚染物質があることを示しています。サンプル A は、元のサンプルに 1 ppb を超える元素が 4 つだけ含まれる高純度のサンプルであることがわかりました。

図 1. TCS の 5 ppb スパイク回収率テストにより、サンプル蒸発時に揮発性元素が失なわれないことが確認され、すべての対象化合物について正確な回収率 (80 ~ 120%) が得られました (図を拡大)。

回収率テストによるサンプル前処理および分析メソッドの検証

メソッドの回収効率をテストするために、また、特にサンプル前処理手順での揮発性元素の損失を確認するために、5 ppb でスパイクした TCS サンプルを調製しました。揮発性が問題になることがあるホウ素を含む、すべての元素で良好な回収率が得られ (図 1)、サンプル前処理と分析メソッドの両方の有効性が証明されました。

33 種類の元素の正しい分析により可能になるソーラーシリコンの不純物の厳密な制御

アジレントが開発したサンプル前処理アプローチに従って、Agilent 7700s ICP-MS を使用してトリクロロシランの分析に成功しました。ORS3 セルは He コリジョンセルの性能を大幅に向上し、m/z 31 における直接測定によりリンで 0.1 ppb の DL を達成しました。スパイク回収率テストにより、ホウ素とリンを含むすべての元素について、サンプル前処理と分析メソッドの有効性が証明されました。TCS の分析機能により、PV シリコンメーカーは、PV シリコンの製造前に TCS 中間生成物の金属不純物を確認することができます。詳細については、アプリケーションノート『Trace elemental analysis of trichlorosilane by Agilent 7700s ICP-MS』(5990-8175EN) を参照してください。

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