Access Agilent 2010年7月号

生物学サンプル中のポリ臭素化ジフェニルエーテルをスクリーニングする新しい HPLC-ICP-MS メソッド

Katarzyna Bierła、Joanna Szpunar、Brice Bouyssiere
CNRS/UPPA, Laboratoire de Chimie Analytique Bio-inorganique et Environnement, UMR5254, Pau, France

ポリ臭素化ジフェニルエーテル (PBDE) は、類似性のあるポリ塩化ビフェニル (PCB) と同じく、環境への残留や生体内での蓄積により、毒性を生じるおそれがあります。そのため、環境中の PBDE 濃度の増加による健康への影響が懸念されるようになっています。PBDE には 209 種類の同族体が存在し、臭素化の数や位置がそれぞれ異なりますが (図 1)、その多くは不安定で、環境中で分解 (脱臭素化) される傾向があります。この新しい HPLC-ICP-MS メソッドは、PBDE の分析困難な化合物も検出できる画期的な方法です。

図 1. ポリ臭素化ジフェニルエーテルの一般的な化学構造

メソッド開発の鍵を握る
Agilent 7700x ICP-MS RF ジェネレータ

低分子量の PBDE (最大量約 700) のルーチン分析にはガスクロマトグラフィ (GC) が用いられていますが、GC はリテンションタイムが長く、オンカラムでの分解が生じるため、大型の同族体を分析することができません。そのため、GC に代わる手法として、高性能液体クロマトグラフィ (HPLC) が提案されるようになっています。逆相 HPLC による分離では、PBDE を定量的に溶出させるために大量の有機修飾剤が必要となるため、いままでは信頼性の高い直接的な検出テクニックが存在しませんでした。

ICP-MS は、感度が高く、レスポンスが化合物に左右されないことから、多くの HPLC アプリケーションに適した元素検出テクニックとなります。しかし、PBDE、とくにデカブロモジフェニルエーテル [1] の HPLC-ICP-MS 測定には困難が伴います。これは、高速 HPLC での PBDE 溶出に必要な高流量の有機移動相を、従来の ICP-MS では導入できないためです。独自の高周波数マッチング RF ジェネレータを搭載した Agilent 7700x ICP-MS は、このアプリケーションに対応できるだけの堅牢性を備え、最高 95 % のアセトニトリル (ACN) を含む高流量の HPLC 移動相にも耐えられます。

この研究 [2] の目的は、ラット肝臓および糞に含まれるデカブロモジフェニルエーテル (bis (ペンタブロモフェニル) エーテル、BDE-209) の代謝物を高速でスクリーニングする HPLC-ICP-MS メソッドを開発することです。

使用装置: 第 3 世代のコリジョン/リアクションセル (ORS3) を搭載した Agilent 7700x ICP-MS を、Agilent 1200 シリーズ LC システムと組み合わせました。PBDE の分離には、逆相カラム (Agilent ZORBAX Eclipse XDB-C18、4.6 x 50 mm、1.8 μm) を使用しました。

手順: ラットの肝臓および糞のサンプルを採取し、ホモジナイズしたのち、約 1 g のサブサンプルを採取しました。各サンプルタイプから ACN/トルエンに PBDE を抽出し、分析しました。流量 1.5 mL/min の水とアセトニトリル (70 ~ 95 % ACN) のグラジエントを用いて、10 μL のサンプルを 12 分間のクロマトグラフィで分離しました。2 つの Br 同位体 (79Br および 81Br) を両方ともモニターしました。最適なキャリアガス流量は 0.65 L/min でした。1550 W のプラズマ RF 電源を使用しました。コーンでの炭素の蓄積を避けるために、アルゴンキャリアガスに酸素 (8 %) を添加し、溶媒蒸気圧を低下させるためにスプレーチャンバの温度を - 5℃ に維持しました。ORS3 のセルガスには、流量 2 mL/min のヘリウムを使用しました。

図 2. PBDE 標準物質各 0.25 mg/mL の HPLC-ICP-MS クロマトグラム(画像を拡大するにはここをクリックします)。
図 3. 肝臓サンプルの HPLC-ICP MS クロマトグラム。実線: サンプル; 破線: BDE-209 0.25 mg/mL を添加したサンプル(画像を拡大するにはここをクリックします)。

標準的なサンプル導入システム (同軸ネブライザおよびスコット式ダブルパススプレーチャンバ) を備えた 7700x ICP-MS を用いた場合、アセトニトリルを流量 1.5 mL/min で 7700x のプラズマに直接吸引しても、プラズマの安定性に影響は出ませんでした。4.6 mm HPLC カラムでは、満足のいく PBDE の分離能が得られました。この条件で得られた PBDE 標準混合物のクロマトグラムを図 2 に示しています。

生物学サンプルに含まれる PBDE の定量

このメソッドを、BDE-209 (デカブロモジフェニルエーテル) の代謝生成物のスクリーニングに適用し、親化合物を定量しました。肝臓サンプルの代表的な HPLC-ICP-MS クロマトグラム例を図 3 に示しています。BDE-209 の代謝物が存在しないことが見てとれます。存在する化合物は、BDE-209 のみです。BDE-209 については、標準添加メソッドで定量しました。各抽出物における測定濃度は、ラット肝臓サンプルで 7.9 ± 0.2 mg/mL (Br で測定)、ラット糞サンプルで 14.1 ± 1.1 mg/mL でした (クロマトグラムは示さず)。3 回の個別分析の精度は、肝臓サンプルで 6.8 %、糞サンプルで 6.9 % でした。

放射能検出に代わる新しい HPLC-ICP-MS
スクリーニングメソッド

高速周波数マッチング RF ジェネレータを搭載した 7700x ICP-MS を使えば、最高 95 % のアセトニトリルを含む HPLC 移動相を最高 1.5 mL/min の流量で導入できます。これにより、ラット代謝研究における BDE-209 代謝物の新たなスクリーニングメソッドの開発が可能になります。この HPLC-ICP-MS メソッドは、放射能検出を用いた HPLC に匹敵する精度を備え、生物学サンプルに含まれる PBDE 代謝物のスクリーニングに用いられている他のメソッドに代わる手法となります。詳細については、完全版の雑誌記事をご覧ください。

謝辞

INRA、UMR の Anne Riu 氏、Laurent Debrauwer 氏、Daniel Zalko 氏に感謝します。

参考文献

  1. http://en.wikipedia.org/wiki/Decabromodiphenyl_ether
  2. Katarzyna Bierla, J. Anal. At. Spectrom., 2010, DOI: 10.1039/c000686f – Reproduced by permission of The Royal Society of Chemistry (RSC)

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