IP PM DY/09 メソッドを使用したジェット燃料中の微量 FAME の GC/MS 分析

James D. McCurry、Ph.D
アジレント シニアサイエンティスト

航空燃料は、同じパイプラインで輸送される自動車用バイオディーゼルの脂肪酸メチルエステル (FAME) によって汚染されることがあります。FAME によるジェットエンジンに対する影響がまだわかっていないため、懸念が高まっています。航空燃料中の FAME の難しい分析に対処するために、英国の Energy Institute は最近、選択イオンモニタリング (SIM) モードとスキャン(SCAN)モードの両方を必要とする新しい GC/MS メソッドを開発しました。Agilent 5975C シリーズ GC/MSD は、すべてのメソッド要件を満たしながら、SIM と SCAN データの両方を 1 回の分析で取り込めるため、この分析に理想的です。

  FAME species Molecular
formula
Symbol
used
  Methyl palmitate C17H34O2 C16:0
  Methyl
heptadecanoate
C18H36O2 C17:0
  Methyl stearate C19H38O2 C18:0
  Methyl oleate C19H36O2 C18:1
  Methyl linoleate C19H34O2 C18:2
  Methyl linolenate C19H32O2 C18:3
 
  表 1. この 6 つの脂肪酸メチルエステルを使用して、ジェット燃料中のバイオディーゼル燃料汚染を測定します。

複雑で望ましくない汚染

多種製品パイプライン (MPP) は、ジェット燃料を含むさまざまなタイプの液体炭化水素燃料を輸送します。近年、バイオディーゼル燃料の MPP 輸送の増加により、ジェット燃料汚染の新たな原因として FAME が出現しました。FAME 汚染の影響はまだ研究中ですが、商業航空機エンジンの製造業者は、ジェット燃料中の FAME の総量に 5 mg/kg (ppm) という制限を設けました。

バイオディーゼル燃料は、石油ディーゼルに 5~20 % の FAME を加えた混合物質です。FAME の化学構造は、極性メチルエステル基と結合した非極性長鎖炭化水素から構成されます。FAME は、各種の再生可能なリソース、主に植物油と動物性脂肪から作られます。これらの油脂の変化に富んだ性質により、多くの異なる飽和および不飽和 FAME がバイオディーゼルで検出されます。ジェット燃料中のすべての FAME を測定することは困難であるため、Energy Institute は、6 種類の FAME が潜在的なバイオディーゼル源の 95% を占めるものと判断しました。[1]これを表 1 に示します。

図 1. これらのトータルイオンクロマトグラム (TIC) は、SIM 取り込みで S/N 比が向上していることを示しています(画像を拡大するにはここをクリックします)。
図 2. 0 ~ 50 mg/kg の各 FAME の検量線は、メソッド要件を上回る直線性を示しています(画像を拡大するにはここをクリックします)。
図 3. 0 ~ 5 mg/kg の各 FAME の検量線は、0.999 より優れた相関係数を示しています(画像を拡大するにはここをクリックします)。
図 4. SIM トータルイオンクロマトグラムの比較は、ジェット燃料のブランクの上に FAME スパイクを明確に検出できることを示しています(画像を拡大するにはここをクリックします)。

GC/MS 分析による GC 分解能の問題の克服

ジェット燃料は複雑であるため、1 本のキャピラリカラムでは炭化水素マトリクスから FAME を分離できません。この問題を解決するために、Energy Institute は、GC/MS を使用してジェット燃料中の各 FAME を選択的に検出および定量するメソッド IP PM DY/09 を開発しました。[1] 各 FAME のマススペクトルでは、炭化水素マトリクスには見られない特有のイオンがいくつかあるため、メソッドでは SIM を使用して選択性と感度を最適化しています。同定を支援するために、メソッドでは、各 FAME に対して m/z 30 ~ 330 のフルマススペクトルの同時取り込みも指定しています。この同時データ取り込み手法を SIM/SCAN と呼びます。

このメソッドを実証するために、Agilent 7693A シリーズ オートサンプラAgilent J&W HP-INNOWax カラム (部品番号 19091N-205) を使用して Agilent 5975C シリーズ GC/MSD システムを構成しました。FAME 較正用標準溶液をドデカンで前処理し、地元の精製業者からジェット燃料の市販サンプルを入手しました。このサンプルは FAME を含まず、ブランクとして使用しました。また、このジェット燃料サンプルを使用して、それぞれ 5 および 1 mg/kg の総 FAME で 2 つのマトリクススパイクを前処理しました。メソッドで概説されているように、標準試料、ブランク、およびマトリクススパイクを同一条件下で分析しました。

図 1 に、ドデカン中に各 FAME を 0.5 mg/kg 含む較正用標準溶液で測定した SIM/SCAN データを示します。S/N 比が高い SIM データは、このデータがジェット燃料中の微量レベルの FAME の定量に使用された理由を示しています。

すべての結果がメソッド要件に適合

メソッドごとに、各 FAME で 2 セットの検量線を作成しました。最初の検量線セットは 0 ~ 50 mg/kg の範囲で (図 2)、5 mg/kg を超える FAME を含むサンプルの定量に使用されています。2 つ目の検量線セット (図 3) は 0 ~ 5 mg/kg の範囲で、5 mg/kg 未満の FAME を含むサンプルの定量に使用されています。すべての相関係数は 0.985 を超える必要があり、この要件は両方のプロットセットで満たされています。

2 つのマトリクススパイクとマトリクスブランクのデータを図 4 に示します。マトリクスブランクに比べて、FAME ピークは両方の濃度レベルで簡単に観察できます。

スパイクされた各サンプルを 3 回分析して、測定精度を計算しました。5 mg/kg の総 FAME 限界では、計算された平均は 5.1 mg/kg、標準偏差は 0.10 mg/kg でした。より難しい 1 mg/kg の総 FAME の低濃度スパイクでは、3 回の分析で、平均が 1.1 mg/kg、標準偏差が 0.12 mg/kg でした。

同時SIM/SCANによる分析

Agilent 5975C GC/MSD システムは、Energy Institute のメソッド IP PM DY/09 を使用したジェット燃料中の微量 FAME の測定に適したプラットフォームです。SIM/SCAN の同時データ取り込みは簡単に設定でき、感度と選択性を最大化し、定性分析のフルスペクトルを取込めます。1 回の分析で、SIM と SCAN データを同時に取り込めます。

メソッドで説明されている較正手順を使用すると、5975C は低濃度と高濃度の両方ですべての FAME について直線性要件を満たし、マトリクススパイクの 3 回の分析は優れた精度を実証しました。このメソッドの詳細、および Agilent 5975C シリーズ GC/MSD を使用したジェット燃料中の FAME の分析の詳細については、e-セミナーを参照してください。

参考資料

1. IP PM DY/09 “Determination of fatty acid methyl esters (FAME), derived from biodiesel, in aviation turbine fuel - GC-MS with selective ion monitoring/scan detection method,” the Energy Institute, London, UK.