2.多変量解析を活用した染料インクの UV 劣化解析
光などによる劣化挙動を調べる場合、様々な分解物が生成するため、劣化前と劣化後の差異を解析するのは、非常に難しい。そこで、多変量解析の劣化解析への応用を検討した。5種の染料インク (A ~ E) の印刷物について UV を 0, 1.5, 3, 6時間照射し、インク成分を抽出した試料について高分解能 LC/MS/MS 測定を行った。これらのデータについて、多変量解析の手法の一つである階層クラスタリング解析 (ソフト: Mass Profiler Pro) を行った結果 (図1)、サンプル間の類似性を示す横軸で、「A」 「B」 「C, D」 「E」 の 4つのグループに分かれ、更に同一グループ内では、照射時間順に分類された。また、ピーク変数 (RT、m/z) の類似性を示す縦軸と行列を作成したところ、各試料で変化するピークをグループ化することができ、UV 劣化の全体像の把握が可能となった。
次に、E のインクについて、UV 照射で変化するピークの解析を行った。0時間と6時間照射のデータ (図2) についてT検定 (ソフト: Mass Profiler Pro) を行い、Volcano Plot (横軸 : Ratio = 6h/0h, 縦軸 : p value)で有意差のあるピークを抽出した (図2)。10倍以上変動のあるピークを 図2 のトータルイオンクロマトグラムに矢印で示したところ、微小ピークや他のピークと重なるような解析の難しいピークも抽出された。
また、自己組織化マップ (SOM) (ソフト: Mass Profiler Pro) を用いて、UV 照射時間に対する各ピーク強度の変化を 8つのパターンに分類した (図3)。その結果、UV 照射によるピーク強度の増減変化が分類された。さらに、ピーク強度が増加する変化の中でも照射時間とともに頭打ちする変化と徐々に増加する変化が分類されていることがわかった。