Voice of Customer お客様の声 : 日産化学工業(株)様

 

※3/8(月)内容を一部アップデートしました。

 

1. 緒言

最近の材料は、複雑な組成のものが増えている。これらの解析に対応するためには、「前処理」 「分離・測定」 「データ解析」 の高度化が必要である。そこで我々は、分子構造だけでなく部分構造の元素組成情報も得られる高分解能 LC/MS/MS データに、多変量解析を適用して、膨大で複雑なデータから、有用な情報を取り出す検討を行った。

 
図1: UV 照射染料インクの LC/MS データの階層クラスタリング解析結果 ※画像クリックで拡大

図2: 0時間照射と 6時間照射のクロマトグラム (左) および T検定結果 (Volcano Plot :右) ※画像クリックで拡大上/

2.多変量解析を活用した染料インクの UV 劣化解析

光などによる劣化挙動を調べる場合、様々な分解物が生成するため、劣化前と劣化後の差異を解析するのは、非常に難しい。そこで、多変量解析の劣化解析への応用を検討した。5種の染料インク (A ~ E) の印刷物について UV を 0, 1.5, 3, 6時間照射し、インク成分を抽出した試料について高分解能 LC/MS/MS 測定を行った。これらのデータについて、多変量解析の手法の一つである階層クラスタリング解析 (ソフト: Mass Profiler Pro) を行った結果 (図1)、サンプル間の類似性を示す横軸で、「A」 「B」 「C, D」 「E」 の 4つのグループに分かれ、更に同一グループ内では、照射時間順に分類された。また、ピーク変数 (RT、m/z) の類似性を示す縦軸と行列を作成したところ、各試料で変化するピークをグループ化することができ、UV 劣化の全体像の把握が可能となった。

次に、E のインクについて、UV 照射で変化するピークの解析を行った。0時間と6時間照射のデータ (図2) についてT検定 (ソフト: Mass Profiler Pro) を行い、Volcano Plot (横軸 : Ratio = 6h/0h, 縦軸 : p value)で有意差のあるピークを抽出した (図2)。10倍以上変動のあるピークを 図2 のトータルイオンクロマトグラムに矢印で示したところ、微小ピークや他のピークと重なるような解析の難しいピークも抽出された。

また、自己組織化マップ (SOM) (ソフト: Mass Profiler Pro) を用いて、UV 照射時間に対する各ピーク強度の変化を 8つのパターンに分類した (図3)。その結果、UV 照射によるピーク強度の増減変化が分類された。さらに、ピーク強度が増加する変化の中でも照射時間とともに頭打ちする変化と徐々に増加する変化が分類されていることがわかった。

図3: 6時間照射試料の自己組織化マップ (SOM) 解析結果 ※画像クリックで拡大

 

 

 

 

 

 
図4: MS/MS スペクトルの階層クラスタリング結果 ※画像クリックで拡大
図5: UV 劣化経路の解析結果 ※画像クリックで拡大

最後に、MS/MS スペクトルの類似性を評価することで、劣化経路の解析を試みた。E の 6時間照射インクの MS/MS スペクトルについて、階層クラスタリング解析 (ソフト: GeneSpring GX) をおこなった。その結果、UV 照射で減少する m/z=319 (二価イオン: RT=4.04) と類似したピークとして、m/z=306 (RT=2.87) および m/z=349 (RT=2.36) が抽出された (図4)。MS/MS スペクトルの解析から m/z=319 (二価イオン: RT=4.04) のピークは、図5 に示すアゾ系の染料と推定された。一方、m/z=306 (RT=2.87) および m/z=349 (RT=2.36) のピークは、どちらも尿素部位の切断による分解物と推測された (図5)。m/z=306 (RT=2.87) は、ピーク強度が 1.5時間照射で頭打ちになるのに対して、m/z=349 (RT=2.36) はピーク強度が照射時間とともに増加していくことが分かった。

4. まとめ

多変量解析は、膨大なデータ群の中から、全体の傾向を視覚化でき、さらに、目的に応じた情報を抽出するのに有用であった。一方で、多変量解析には様々な方法があり、これらの特徴を理解して、使い分けることが重要である。
今後も材料の高機能化に伴い、解析技術の向上が必須となる。そのためにも、材料解析に対する多変量解析の応用範囲を広げていく必要がある。

 

※上記は 2009年 7月開催 Agilent LC/MS セミナーのダイジェスト版です。