グリカン発現の新たな研究を可能にするカスタム HPLC-Chip

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グリカン発現の新たな研究を可能にする
カスタム HPLC-Chip

Dayin Lin
アジレント・テクノロジー, 液相分析部門, LSG, 製品マネージャ

 


生物医学研究は、適切な機器を使えるようになったときに、飛躍的に進歩します。グリカン発現はその一例です。構造が多様なグリカンは、哺乳類の細胞表面や細胞外基質に存在します。細胞間認識や細胞間および細胞と基質の相互作用を介していますが、その詳しいメカニズムは大部分が謎に包まれています。そうしたグリカンの LC/MS 分析に伴う難題の多くが、革新的な Agilent HPLC-Chip により解消されました。

図 1. 大学院生 Greg Staples 氏 (左) と Joseph Zaia 教授 (右) は、Agilent HPLC-Chip/MS を使って複合糖鎖の最先端研究を行っています。

ボストン大学メディカルスクール内にある Mass Spectrometry Resource の Joseph Zaia 教授のチームは、さまざまな細胞条件下で発現する各種グリカンを研究するための LC/MS メソッドを開発しています [1]、[2]。こうした多様な炭水化物の同定や定量には、エレクトロスプレーのネガティブイオンモードを用いたナノフロー LC/MS が用いられますが、その場合、多くの難題を解決しなければなりません。アジレントは、HPLC-Chip が研究に与えている影響について、Zaia 教授の話を聞きました。

迅速な設定と安定した性能

HPLC-Chip 導入以前は、ラボの最大の問題は、LC と MS をつなぐインターフェースにありました。ナノフロー流量のネガティブイオンモードで安定したスプレーを得るのが困難だったため、実験を設定するだけでも長い時間がかかっていました。しかし、HPLC-Chip を使用することで、すべてが変わりました。HPLC-Chip は、ミクロフロイディクスチャンネル、HPLC カラム充填剤、統合型ナノエレクトロスプレーエミッタ、エレクトロスプレー用の電気接点を備えた小型装置です。Zaia 教授は次のようにコメントしています。「HPLC-Chip がこの問題を解決できるように設計されていることが、すぐにわかりました。これでデータの採取に苦労することは、もうなくなりました。HPLC-Chip が、私たちに力を与えてくれました」

この最初の成功を受け、Zaia 教授のチームは、Agilent 6520 Accurate-Mass Q-TOF LC/MS を含む Agilent HPLC-Chip/MS システムを購入しました。ほぼ時を同じくして、Agilent Foundation の大学助成金を申請し、受理されました。これにより、科学コミュニティに新機能を導入するための取り組みが、他チームと合同で開始されました [3]。

図 2. HPLC-Chip にメイクアップフローが組み込まれています。これにより、LC グラジエント条件が理想的ではない場合でも、エレクトロスプレーを安定させることができます(画像を拡大するにはここをクリックします)。

夜間分析を可能にするメイクアップフロー

Zaia 教授のチームでは、親水性相互作用液体クロマトグラフィ (HILIC) が使用されています。HILIC では、特別な充填剤を備えたカスタムチップが必要となります。グラジエントの有機濃度が高から低へ変化しますが、こうした分析では一般に、分析の終わりまでネガティブモードで安定したスプレーを保つのが難しくなります。この問題を解決するために、アジレントラボの協力者は、実験的なメイクアップフロー (MUF) HPLC-Chip を提供しました (図 2)。これにより、Zaia 教授のチームは、有機溶媒のポストカラムを追加することが可能になりました。グラジエント全体でスプレーの安定性を保つことができるようになり、測定できるグリカンの幅も広がりました。また、分析中にイオン源電圧を調節する必要がなくなったため、夜間の無人分析も可能になりました。

さらなる進歩 : 大量サンプルの分析

さらに、大規模研究が可能になり、グリコサミノグリカン (GAG) の時間的発現や空間的発現の違いを分析できるようになったと、Zaia 教授は語っています。この重要な研究では、多数のサンプルの 3 回繰り返し分析において、一貫した信頼性の高いデータを提供できる LC/MS システムが求められます。「処理すべきサンプルセットをすべて分析するためには、数日にわたってシステムの安定性を保つ必要があります。1 年半前から、そうした大量のサンプルセットの分析において、このシステムを使用できるようになりました。以前だったら、こうした研究に対応するだけの機器の安定性は得られなかったでしょう」

不安定な GAG を分析する新たな方法

Zaia 教授のチームは、LC/MS/MS を用いた今後の GAG 分析計画に期待を寄せています。GAG は分析が特に難しい物質です。これは、多くが硫酸化していて、不安定な性質を持つためです。Zaia 教授は、メイクアップフローを用いて添加剤を導入し、硫酸基を安定させるという計画を立てています。この手法なら、側基を失わずに、分析に役立つ中心部のフラグメンテーションが得られます。Zaia 教授は今後の成功の鍵として、アジレントとの継続的な協力を挙げています。「この技術に関して、アジレントはとても大きな力を貸してくれています。オンラインタンデム MS に移行し、より詳細な分析を行うのを楽しみにしています」

カスタム HPLC-Chip は、ボストン大学の Zaia 教授のラボに、生物医学研究上の新発見を可能にする研究ツールをもたらしました。カスタム HPLC-Chip に加えて、アジレントは各種アプリケーション用の標準 HPLC-Chip も提供しています。そのすべてが、Agilent 6000 シリーズ LC/MS システムに対応しています。詳細については、アジレントの詳細ページをご覧いただくか、お近くのアジレント販売店にお問い合わせください。

参考文献

  1. J. Zaia, “On-line separations combined with MS for analysis of glycosaminoglycans,” Mass Spectrom Rev. 28(2):254-72, 2009.
  2. J. Zaia, “Mass spectrometry and the emerging field of glycomics,” Chem. Biol. 15(9):881-92, 2008.
  3. G. O. Staples, M. J. Bowman, C. E. Costello, A. M. Hitchcock, J. M. Lau, N. Leymarie, C. Miller, H. Naimy, X. Shi, and J. Zaia, “A chip-based amide-HILIC LC/MS platform for glycosaminoglycan glycomics profiling,” Proteomics, 9(3):686-95, 2009.

 

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