医薬品中の半揮発性溶出物および浸出物 (E&L) の検出

Andreas Tei、アジレントグローバル医薬品セグメントマネージャ

Access Agilent の 2015 年 11 月号および 2016 年 1 月号の 2 つの記事で、医薬品に含まれる不純物としての溶出物および浸出物 (E&L) を分析する一般的なワークフローについて取り上げました。また、先日、さまざまな医薬品中の揮発性および半揮発性 E&L をヘッドスペースおよびマルチモード注入 GC/MS 法で分析しました。その結果は、アジレントのアプリケーションノート 5991-5616JAJP5991-5605JAJP5991-5632JAJP、および 5991-6142EN に記載しています。今回の記事では、この一連の調査の一環として、高分解能精密質量 GC/MS による点眼医薬品中の E&L の同定について説明します。

高分解能 GC/MS を使う理由

化合物の整数質量電子衝突イオン化 (EI) 質量スペクトルと市販データベースのスペクトルデータとの比較にもとづく化合物の確認では、不確実性が伴う可能性が高く、暫定的な同定結果しか得られません。確実な同定結果を得るためには、リファレンス化合物を同じクロマトグラフィー条件で分析し、未知化合物とリファレンス化合物のスペクトルおよびリテンションタイムを比較して、暫定的な結果を確認しなければなりません。

効率的な自動同定プロセスを実現するための有効な手段となるのが、高分解能質量分析と衝突誘起解離 (CID) の組み合わせです。このプロセスでは、化合物の分子イオンと存在量の最も多いフラグメントイオンの化学式を計算することにより、化合物の存在が確認されます。精密質量データをもとに同定された化合物の情報はパーソナル化合物データベース (PCD) に保存され、以降の分析の自動同定プロセスで確実な結果を得るために役立てられます。

ここでは、この自動同定プロセスについて説明するために、Agilent Mass Profiler Professional データマイニングソフトウェアを用い、精密質量データをもとに複雑なマトリックス中の化合物の存在を検出し、確認する自動ワークフローを検証します。このメソッドでは、ソフトなイオン化技法である化学イオン化に続いて CID を用いることにより、フラグメントイオンを生成します。

図 1. 医薬品容器から溶出した不純物を分析するための信頼性の高いワークフロー

図 1. 医薬品容器から溶出した不純物を分析するための信頼性の高いワークフロー

信頼性の高い答えを引き出す高度なワークフロー

この調査では、点眼医薬品中に、密閉容器に使用されているポリマー材料から溶出した不純物が存在するかどうかを調べました。図 1 にワークフローを示します。このワークフローは次のステップで構成されています。

  1. 高分解能電子衝突イオン化 (HR-EI) モードでのデータの取り込み
  2. ライブラリの自動照合 (公称スペクトルライブラリ NIST 14)
  3. Agilent Mass Profiler Professional ソフトウェアによるブランクと抽出サンプルの差分解析
  4. 高分解能化学イオン化 (HR-CI) MS および HR-CI MS/MS データにもとづく、暫定的に同定した化合物の確認
  5. 半定量

医薬品容器を有機溶媒で抽出し、抽出サンプルを Agilent 7200 GC/Q-TOF で EI モードを用いて分析しました。溶媒ブランクサンプルも分析し、化学物質によるバックグラウンドコンタミネーションを特定しました。

水性液剤についても、有機溶媒で抽出して分析しました。データ解析には 2 ステップのプロセスを使用しました。最初のステップでは、採取した各質量スペクトルについて、NIST 14 ライブラリの公称質量スペクトルとの比較を自動的に実行し、抽出化合物のリストを生成しました。次に、この化合物リストに対して差分解析プロセスを実行し、化学物質によるバックグラウンドノイズを差し引いて、両方のサンプルに共通して含まれる化合物を特定しました。このデータマイニングプロセスには、Agilent Mass Profiler Professional ソフトウェアを使用しました。

このプロセスにより、暫定的に同定した化合物は、容器の抽出サンプルと液剤中に共通して含まれる化合物に絞り込まれました。次に、化学イオン化と CID および精密質量スペクトルを組み合わせて用い、暫定的に同定した化合物の確認を行いました。その後、EI および CI 精密質量データをもとに同定した化合物をパーソナル化合物データベースライブラリ (PCDL) に保存しました。これにより、今後の分析での化合物確認プロセスを効率化することができます。

図 2. この化学イオン化高分解能 MS/MS スペクトルにより、フタル酸ジエチルの存在が確認されました。

図 2. この化学イオン化高分解能 MS/MS スペクトルにより、フタル酸ジエチルの存在が確認されました。

図 3. Agilent Mass Profiler Professional を用いたデータマイニングにより、E&L が 150 種類以上存在することが明らかになりました。

図 3. Agilent Mass Profiler Professional を用いたデータマイニングにより、E&L が 150 種類以上存在することが明らかになりました。

CID による不確実性の排除

EI モードで幅広いフラグメンテーションを示す、暫定的に同定した化合物は、化学イオン化と CID の組み合わせにより確認できます。図 2 に示すように、高分解能精密質量 MS/MS データをもとに、フラグメンテーションパターンから構造を確認することが可能です。以降の分析を効率化するために、CI MS/MS スペクトルを PCDL に保存してカスタムライブラリを作成できます。

今回の調査の最後のステップでは、同定した化合物の半定量を行いました。半定量には、多様なリファレンス化合物が含まれるサロゲート混合物を外部標準として使用しました。この標準物質を使用して、検出された化合物の濃度を推定し、その濃度と分析評価スレッシュホールド (AET) を比較しました。

この例では、液剤中で検出された化合物には、濃度が 1 ppm に近いものがなかったため、一致するリファレンス化合物を用いたより正確な定量は必要ありませんでした。

図 3 のベン図は、Agilent Mass Profiler Professional ソフトウェアによる差分解析データマイニングプロセスの結果です。

表 1は、容器の抽出サンプルおよび液剤中で検出された 8 種類の共通化合物です。

リテンションタイム 溶出物および浸出物 溶出物の Fold change (FC)
8.75 オクタン、3,5-ジメチル 上昇
15.16 ベンゼン、1,3-ビス (1,1-ジメチルエチル)- 上昇
15.75 ドデカン、4,6-ジメチル 上昇
16.19 トリデカン 上昇
16.20 ノナデカン 上昇
16.87 シクロヘキサシロキサン、ドデカメチル- 上昇
19.92 亜硫酸、ペンチルウンデシルエステル 上昇
20.53 シクロヘプタシロキサン、テトラデカメチル- 上昇

表 1.差分解析により判明した共通化合物

E&L 分析を促進するパワフルなツール

Agilent 7200 GC/Q-TOF は、医薬品の E&L の高分解能精密質量スクリーニングおよび同定に最適な機器です。検出された化合物を同定するために、NIST 14.0 ライブラリで EI スペクトルを照合できます。また、Agilent Mass Profiler Professional ソフトウェアにより、サンプルセットの差分解析を実行できます。差分解析では、ベン図をもとに、サンプル群に渡ってサンプル固有の化合物と共通の化合物を特定することができます。さらに、精密質量 CI MS/MS スペクトルにより、ライブラリ検索で暫定的に同定した化合物を確認し、同定済みの化合物リストを拡充できます。これらのスペクトルを PCDL に保存してカスタムライブラリを構築し、今後の分析の効率化に役立てることができます。

多くの情報が得られるこれらの分析の詳細については、アプリケーションノート 5991-6688EN および 5991-6348EN をご覧ください。